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――彼は、知らない。知る由がない。
今まで自分の実力だと思っていたすべての能力が、ずっと下に見ていたセレーネの恩恵によるものだったなんて、思いもしない。
疎み、馬鹿にしながら聞き流しても、彼女の歌はこれだけの効果を発揮していたのだ。
真剣に耳を傾け、お互いに心を通わせた彼女の奇跡の歌には、一体どれほどの力が眠っていることか。
……でも、それは彼にとって関係のない話だ。
最低限の誠実さすら持ち合わせていなかった彼はもう、後は堕ちていくだけ。
――だが、そんなのはこれから幸せになる二人にとっては関係のない話である。
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