7 俺と、結婚してほしい

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「セレーネ。これを」  いつも通り歌を披露しようとしたタイミング。ガイウスは突然、そう言ってセレーネを呼び止めた。  振り向いた彼女の目に入ったのは、ガイウスの浮かべるいつも以上に凶悪な表情だ。  強く引き結んだ口は憤怒を(こら)えるようで、ぎょろりと睨む眼は息苦しいほどの圧迫感がある。さらに血が昇った顔はこめかみに走る傷をいつも以上に浮かび上がらせていて、獰猛な彼の表情をさらに鬼気迫るものに仕立て上げていた。  そんな表情の彼を前にして、セレーネはふわりと笑う。  その表情が緊張によるものだと彼女にはわかっていたし、ガイウスの手の中にはその凶悪な顔には似つかわしくない可愛らしい花束が握られていたからだ。  唇を惹き結んだまま、ガイウスは片膝をついて無造作に……いや、彼にとってはできる限り優雅さを心掛けた動きでセレーネに花束を差し出す。 「まぁ、素敵な花束。良い香りですね」  受け取った花束にセレーネが喜びの声を上げたのを聞いて、ようやくガイウスは少しだけこわばった表情を緩めた。
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