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そんな彼女を落ち着かせるかのように、ポン、と優しい感触がした。
大きくて分厚い手が、躊躇いがちに彼女の頭をゆっくりと撫でる。
――それは粗野で凶悪という彼の噂にはそぐわない、優しくてホッとする暖かな手つきであった。
その感触に、セレーネの気持ちは徐々に穏やかさを取り戻していく。ふっとセレーネの肩のこわばりが解れた。
顔を上げれば、気まずそうにガイウスは目を逸らして手を離す。
取り繕うようにシャツのボタンを留め直す彼の姿に、あらためてその半裸の姿に気付かされた。
先ほどの状況を客観的に振り返ったセレーネの頬が、恥ずかしさに朱く染まっていく。
「……良い声だった」
ぽつりと、視線を落としたまま無愛想にガイウスは呟いた。
ひと言だけの、不器用な賛辞。そんな彼の言葉不足を補うかのように、その横でジルが何度も頷きながら激しく手を叩きはじめる。
「言葉が足りなすぎます、旦那さま! こんな素敵な歌を聖女さまが披露してくださったというのに……。わたくし芸術には疎いのですが、感動で涙がこみ上げました。旦那さまにも奇跡が感じられたのでは?」
しばらく確かめるように身体を動かしてから、ガイウスは「そうだな……」と慎重に口を開いた。
「確かに、痛みはなくなったように思える」
「旦那さま……!」
ガイウスの言葉に、ジルは感動で身を震わせる。
「嬉しゅうございます! 要らなくなった結婚相手を下げ渡すと突然通達が来たときは、一体どんな問題人物を押し付けられるか戦々恐々の思いでしたが…」
「ジル! 今すぐその口を閉じろ!」
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