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ビリビリとガラスが震えるほどの怒鳴り声が響きわたった。吠えるようなその声に、ベラベラと調子よく喋っていたジルは慌ててその口を噤む。
怒気をあらわにしたガイウスの剣幕は、気の弱い女性であれば失神してしまうであろうほどに恐ろしい。
しかし、ジルが頭を下げたのは、そんな主人ではなくセレーネに対してであった。
「大変失礼いたしました。不用意な発言を、心よりお詫びいたします」
「いえ、そんな……」
自分は気にしてないと、セレーネはわたわた両手を振る。普段他人に頭を下げられたことのない彼女には、この場をどう納めれば良いのかわからない。
助けを求めてガイウスに目を向ければ、「とにかく」と、強引に彼は言葉を話を断ち切った。
「外聞や過程を気にするな。俺たちはアンタを歓迎している」
「旦那さまのお言葉のとおりです。セレーネさまのお部屋も、張り切って準備いたしました。……とはいえ、屋敷に女性が住まうのは初めてのこと。何かと不足はあると思いますので、遠慮なくこのジルにお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます……」
「アンタの歌にはそれだけの価値がある」
申し訳なさそうに身を縮めるセレーネに、ガイウスはこともなげに告げる。
「その歌を聞かせてもらえれば、それ以上は求めない。自由に過ごしてくれ」
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