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「本当に、恐ろしい方なのかしら」
「え?」
「口数は少なかったけれど、あの方の言葉はどれも私のことを尊重したものだったの。お顔も怒っているわけじゃなくてただ吊り目で表情が乏しいだけだと思えば、怖くはなかった。だから……」
侍女の顔を真っ直ぐに見て、セレーネは笑む。
「私、あの方と上手くやっていけると思う」
……そう。彼の視線に、蔑みや嫌悪の色はなかった。
たとえ彼の目的が、自分の歌声だったとしても。それは、今までの状況よりもずっと心安らぐものだ。
「私のこんな歌でも、お役に立てるなら」
驚きで言葉を失っている侍女を気にせず、セレーネはそっと、自分に言い聞かせるように呟く。
――私は、あの方に喜んでほしいと思ったのだ。
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