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4 初恋の再来
祖父の「秘蔵っこ」が、グリシェとのお見合いを承諾した――そんな報せが飛び込んできたのは、それから十日ほど経ってのことであった。
「突然、手のひらを返したようにお前さんとのお見合いに積極的になっての。気が変わらないうちにと、さっそく日程を組んでおいた。今回の相手は手強いから、しっかり準備するようにの?」
――そうして、お見合いの日はあっという間にやって来る。
しかし、グリシェの気持ちはこれまでにないほどに後ろ向きであった。原因は明白だ――この前口にした初恋の思い出の所為である。
今まで彼女はお見合いを、「貴族の娘としての義務」と使命感を持って臨んできていた。
なるべく私情を交えず、客観的に国境伯の伴侶として相応しいか判断する――そう意識してこなして来たつもりだった。
それなのに、今のグリシェにはそれができそうにない。
忘れていた初恋の気持ちが、立場に縛られたグリシェをちくちくと苛んでくる。
こんな相手と恋がしたいと、叶うはずのない望みを叫ぶもう一人の自分が、止められない。
(結婚相手は、条件を満たしていればそれで良いと思っていた――なのに、「理想」を具体的なカタチで思い浮かべてしまったがために、これでは現実の相手とのギャップを受け入れられそうにない……! 今までの条件を満たした相手が現れたとしても、それを自分が「妥協」と捉えてしまいそうで嫌になる……)
自分にも相手にも誠実でいたいと振る舞うグリシェは、そんな八方ふさがりの己の心境に絶望を感じる。
普段であれば相談に乗ってくれるはずの彼女の忠実な執事も、今日は休暇を取っていて傍にいない。
気持ちの整理がつかないまま、グリシェは支度をととのえて重い足取りで会場へと向かったのだった。
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