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――自身が、男性に好かれるような容姿でないことくらい、重々承知している。
太陽の光の下でないと輝かない茶色の髪は粗野と評され、薄いアイスブルーの瞳は冷酷と詰られる。
そして何より日頃の鍛錬で身体についた筋肉は、女性らしからぬ身体のラインを形作っていた。
そんな彼女を「しなやかで美しい」と褒め称えるのは、家の者くらいのものだ。
「お疲れさまでした、お嬢さま」
「トゥーヤ。お客さまはもうお帰りか」
「ええ。丁重にお見送りいたしまして、快く帰っていただきました」
「そうか。気を悪くしていたようだから家の者に当たらないかと心配したんだが、それなら良かった」
含みを持たせた執事の言い方を気にすることもなく、グリシェは軽く頷く。
「あまり手応えのある相手ではなかったようですね」
地面に落ちた剣を拾い上げながら、トゥーヤは小さく呟いた。
先程、グリシェが相手の手から叩き落とした剣だ。
試合が始まってものの数秒の内に、勝負は決してしまった。あまりに隙の大きかった相手を思い出して、グリシェは苦笑する。
「そうだね……全然身体を動かした感じがしない」
その、と躊躇いがちに執事の顔を窺うと、共に居る時間の長い執事は「ええ」と気安く頷いた。
「物足りないのであれば、お相手しますとも」
「すまない。……もちろん、無理はしなくて良いから」
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