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もろもろの疑問を呑み込んで、グリシェはトゥーヤに向き合い剣を構える。それだけでスッと意識が研ぎ澄まされるのがわかった。
「その……ケガは、大丈夫なのか」
「随分と余裕ですね、お嬢様? 俺は強いですよ」
にやりと強気に答える彼に、覚悟が決まった。
「いざ、……参る!」
片手剣を構え、力強く大地を蹴る。猫のようにしなやかで鋭い彼女の一撃を、トゥーヤは落ち着いた様子で大剣で受け止めた。
「っ!」
急いで数歩後ろに下がり、片手剣を彼の大剣から引き離す。
あのまま刃を絡めていたら、質量の差であっという間にこちらの剣は折られていたことだろう。
あの大剣に掴まったら負けだと悟り、グリシェは素早い足取りで角度を変えながら鋭い連撃を繰り出した。
その切っ先のひとつひとつが、丁寧にトゥーヤの大剣によって弾かれていく。
はたから見れば、大剣はほとんど動いていないように見える。それなのに、必要最小限の動きで彼女の攻撃はすべて防がれているのだ。
それはまるで、自律する鎧人形が彼の周囲を常に守っているかのようであった。
少し距離をとろうと飛び退ったところで、首の後ろがぞわりと粟立つ感触がした。反射的にさらに数歩後ろへ飛ぶ。
その鼻先を掠めるように、竜巻のような豪風が吹き抜けていった。
――遅れて、彼が大剣を振り抜いたのだと気がつく。あのままの距離でぐずぐずしていたら、間違いなく自分は死んでいただろう。
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