4 初恋の再来

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(中途半端な距離ではダメだ……! 却って相手の射程に入ってしまう……!)  背中に冷たい汗を感じる。  彼の射程に入らないように気をつけつつ、グリシェはゆっくりと息をととのえた。  一歩間違えれば、命を刈り取られかねない決死の勝負。  しかしそれは、緊張と同時に奇妙な高揚感をグリシェにもたらす。 (そういえば、彼のケガはどうなっているのだろう……?)  ふと湧いた疑問を胸に目を走らせれば、彼の剣の握りが通常と逆になっていることに気がついた。  本来であれば刃に近いのは右手となるはずが、左手が上になっている。  ――まさか、ケガを契機に利き手を変えたのだろうか。  ありえない、と脳内で打ち消すも、ありえないことではないかもしれない、と彼女の思考は真っ当な意見に反論した。  かつて彼女が見た少年は、まさに戦神に選ばれた天才であった。彼こそがトゥーヤであるならば、利き腕を失ったところで諦めるようなことはしないであろう。  ――だが、利き腕が左だと気がつけたのは大きい。  再びトゥーヤへと打ちかかりながら、グリシェはこっそりと頷く。そして何合か剣を交えたところで、再び彼から距離をとった。 (……来いっ!)  グリシェの内心の叫びが聞こえたように、トゥーヤが一方的な射程を押しつける大振りを放った。  その瞬間を見逃さず、後ろへ引くと見せかけていたグリシェは一気に間合いを詰める。 (今なら、左腹ががら空きだ……!)  針の穴を通すような正確な突きで、その腹を穿つ一撃を放つ。
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