4 初恋の再来

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 ……しかし。 「ぐっ……!?」  何が起きたかわからなかった。  わからないままに視界が反転し、全身が地面に叩きつけられる。決め手となる一撃を繰り出したはずのグリシェは、何故か気がつけば地面に引き倒されていた。  痛みに耐えながら身体を起こせば、すっと目の前に(やいば)が突きつけられた。  ほんの少し切っ先を動かせば、彼女の命なんて簡単に断ってしまいそうな殺意の結晶。  でも、その銀色の輝きが綺麗だ、と反射する光に目を奪われる。  そっと顔を上げれば、今までにないほどの真剣な眼差しのトゥーヤと目が合った。その額には、汗ひとつかいていない。  今まで自分は彼の本気を見たことがなかったのだな――とグリシェはそれを見て悟った。  これまで彼はケガの所為で力の入らない右手だけで、グリシェと渡り合うだけの剣技を見せていた。本来の得物である大剣と左手を加えた彼の強さは、比べるべくもない。  何度挑もうと、彼に勝てるビジョンがまったく目に浮かばなかった。自分との実力差は絶望的だ。 「私の負けだ……降参する」  見合いを始めてから、一度も口にしたことのない台詞。それを初めて声に出して、グリシェは清々しい気持ちに笑い出したくなった。 「まさかあれだけ大きいデカブツの軌道を、あのタイミングで変えてくるとは思わなかった」
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