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「お褒めいただき、光栄です。お嬢様も、まさか利き手の違いを判断して、あのタイミングで仕掛けてくるとは……驚きました。あまり加減ができませんでしたが、お身体は大丈夫ですか」
「ああ、少し打ち身が痛むくらいだ。問題ない」
差し出された手に掴まって、身体を起こす。
「素晴らしい動きでした。私の攻撃を躱してもらえなかったらどうしようと内心ヒヤヒヤしてたのですが、杞憂でしたね」
「そんな心配をしていたとは思えない程、殺意に満ちた攻撃だったけれどな」
お互いに健闘を讃える言葉を交わし、視線を合わせて二人で笑い合う。そしてふっと真剣な表情に切り替えたトゥーヤは、優雅な仕草でグリシェに跪いた。
「これで、お嬢様の結婚相手の条件を満たせたと思います。――どうか私と結婚していただけませんか、お嬢様?」
そう言ってグリシェを見上げる視線はどこまでも真っ直ぐで、真剣だった。
「っ!」
初めての感情に、頬が一気に熱くなるのを感じる。思わず彼から目を逸らしそうになったが、トゥーヤの視線はそれを許してはくれない。
「お嬢様?」
「きっ、君は……あの時の少年なのか?」
すぐに頷くことができず咄嗟に出た質問に、トゥーヤは「ああ」と至って普通の顔で頷いた。
「そうです。愚かにも平民でありながら公衆の面前で第六皇子を叩きのめしてしまったのが、俺です。その結果、彼らの不興を買った俺は、利き腕を失うことになりました――本来なら俺は、そのまま野垂れ死んでいた。でも、お嬢様の御父上に拾っていただいて、生き延びることができました」
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