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「私は……」
喉に絡まる声を必死に絞り出しながら、グリシェはまだ混乱の真っ只中にある己の感情を出さないようにできるだけ冷静な返事を試みた。
「正直なところ、結婚相手としてトゥーヤは魅力的だと思う。執務能力も高いし、剣の腕前も素晴らしい。トゥーヤが国境伯の執務を支えてくれるなら、とっても安心できるよ」
「お嬢様?」
しかし、それだけではお気に召さなかったらしい。表情はにこやかなまま、トゥーヤは容赦せずにグリシェへと迫る。
「俺が聞きたいのは、異性として俺をどう思うか、という話なんですが」
「そっそれは……!」
じり、とつい足が後ろに下がっていく。
彼から距離をとろうと後退りしているというのに、下がれば下がるほどトゥーヤが前へ詰めてくるのは一体どうしたら良いのだろう。
やがて後退するグリシェの足はとん、と壁に行き当たってしまった。もうこれ以上逃げられない。
逃げ道を塞ぐように、トゥーヤが壁に右手をついた。
残された僅かな空間に立ち竦むグリシェを見下ろすトゥーヤの目が、三日月のように細くなる。身を固くしてじっと俯くグリシェの耳に、トゥーヤの吐息が間近でかかった。
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