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④
「え、でも、髪を直さないと」
そうだよ。小林君そのとおりだ。私は、小林君と山木先生を交互に見た。山木先生どうするんですか?
「わかってる。それでだな。小林、俺が、髪の黒染薬を買ってくる。それで、学校で黒染めをしろ。染める場所は、赤葉先生!」
「はい? 何でしょう」
「理科準備室を、使わせてもらえないかな。生徒は入って来ないし。温水の出るシャワー式の流しもあるだろ。あそこで洗髪ができるし」
山木先生、いやに段取りがいいじゃないか。これは、以前から考えていたことだな。でも、私としては、小林君を帰さないですむのなら、反対する理由はない。
「はあ、いいですよ。でも、学校で染めちゃっていいんですか」
「いい、いい。黒くなればいいんですよ。保護者には、俺から連絡しときますから。じゃあ、理科準備室で待っててください。直ぐに黒染めを買ってきます」
山木先生は、校門を出て行った。その先にはスーパーマーケットがある。行動の早い先生だ。
私は、小林君に声をかけた。
「小林君、山木先生は、ああ言ってたけどいいの?」
「はい、いいっす。黒染は、よく自分でやるんで慣れてるし。帰らなくていいんならいいっす」
私は、『そう』と言って、なるべく他の生徒に、見つからないようにして、理科準備室に入った。
準備室の椅子に座ると私は、小林君に聞いてみた。
「でもさあ、その茶髪なら、絶対頭髪検査に引っかかるのがわかってて、何でそのまま学校にきたの」
「いやあ……その……やっぱり学校がいいです。髪は染めるのが面倒くさかったので……しませんでした。でも、ひょっとしたら、学校に入れてくれるかも知れないと思って、きてみました」
何という浅はかさ。
「いや、その茶髪は、無理に決まってるじゃん」
「はあ、やっぱりそうでした」
この学校の生徒は、こんな感じだ。考えが浅い。ただ、学校には来たいのだ。
でも、なんだかんだ言っても、小林君、結局黒染することを条件に、帰らずにすんだのだ。人生何がおこるかわからない。人間、諦めてはいかんなどと思う私だった。でも、学校に来たいのなら、何で髪を茶色に染めるんだ。最初から染めるなよと言いたい。
「でもさあ、小林君は、何で茶髪にするの? 何かいいことあるの? 私は、オシャレとか、化粧とかあんまり興味なかったからなあ」
「うん、先生見てると、よくわかる」
グサッときたよ。正直だね、小林君は。でも、これでも今は、髪形だってお化粧だってちゃんとしているのだ。
「髪を染めるのは、違った自分になれるためかな。何かが変わったみたいで、ワクワクする。それに……」
「それに、何?」
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