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「え、でも、髪を直さないと」  そうだよ。小林君そのとおりだ。私は、小林君と山木先生を交互に見た。山木先生どうするんですか? 「わかってる。それでだな。小林、俺が、髪の黒染薬(くろぞめやく)を買ってくる。それで、学校で黒染(くろぞ)めをしろ。染める場所は、赤葉先生!」 「はい? 何でしょう」 「理科準備室を、使わせてもらえないかな。生徒は入って来ないし。温水の出るシャワー式の流しもあるだろ。あそこで洗髪ができるし」  山木先生、いやに段取りがいいじゃないか。これは、以前から考えていたことだな。でも、私としては、小林君を帰さないですむのなら、反対する理由はない。 「はあ、いいですよ。でも、学校で染めちゃっていいんですか」 「いい、いい。黒くなればいいんですよ。保護者には、俺から連絡しときますから。じゃあ、理科準備室で待っててください。直ぐに黒染めを買ってきます」  山木先生は、校門を出て行った。その先にはスーパーマーケットがある。行動の早い先生だ。  私は、小林君に声をかけた。 「小林君、山木先生は、ああ言ってたけどいいの?」 「はい、いいっす。黒染は、よく自分でやるんで慣れてるし。帰らなくていいんならいいっす」  私は、『そう』と言って、なるべく他の生徒に、見つからないようにして、理科準備室に入った。  準備室の椅子に座ると私は、小林君に聞いてみた。 「でもさあ、その茶髪なら、絶対頭髪検査に引っかかるのがわかってて、何でそのまま学校にきたの」 「いやあ……その……やっぱり学校がいいです。髪は染めるのが面倒くさかったので……しませんでした。でも、ひょっとしたら、学校に入れてくれるかも知れないと思って、きてみました」  何という浅はかさ。 「いや、その茶髪は、無理に決まってるじゃん」 「はあ、やっぱりそうでした」  この学校の生徒は、こんな感じだ。考えが浅い。ただ、学校には来たいのだ。  でも、なんだかんだ言っても、小林君、結局黒染することを条件に、帰らずにすんだのだ。人生何がおこるかわからない。人間、諦めてはいかんなどと思う私だった。でも、学校に来たいのなら、何で髪を茶色に染めるんだ。最初から染めるなよと言いたい。 「でもさあ、小林君は、何で茶髪にするの? 何かいいことあるの? 私は、オシャレとか、化粧とかあんまり興味なかったからなあ」 「うん、先生見てると、よくわかる」  グサッときたよ。正直だね、小林君は。でも、これでも今は、髪形だってお化粧だってちゃんとしているのだ。 「髪を染めるのは、違った自分になれるためかな。何かが変わったみたいで、ワクワクする。それに……」 「それに、何?」
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