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②
ぞろぞろと教員が、チェック表をもって、職員室を出る。
主にクラス担任が一人で、チェックするので、副担任だった私は、行かなくてもいいのだが……。
堅物の担任からお声がかかる。
「赤葉先生も来てください。副担任だし、特に、女子のチェックをしてください。曇りなき眼で見届けること。そして、不正は絶対ゆるさないこと!」
うわ、まじで、行きたくない。明らかに、金髪とか茶髪とかなら、私も強気で『直して、おいで』と指導をする。ところが、微妙に薄いというのが、困るのだ。私が、『これって、ちょっと薄いかなあ』などと言うと、『昨日、がんばって染めたんですけど、不十分だったかなあ』などと答える。確かに染めているようで、染まっていない……。ごまかしているのか、まじで染めようとしたのか。厳しい指導か、生徒を信じるか、などと悩んでしまうのだ。
今までは、『今度からちゃんと染めてね』と言って、学校に入れていた。登校してきた生徒を、指導のためとはいえ、学校に入れず帰すのは、教員として、私の本義ではないのだ。いままでの担任は、私のやり方を認めてくれていた……。
「あ、はい。少々曇ってる眼ですが、がんばります」
とりあえず、私のやり方でやるしかないか。
「え? 曇った眼じゃ困る!ちゃんと見てくださいよ」
わっ、まじで怒られた。冗談なのに。噂にたがわぬ堅物、山木先生だ。
山木先生の後ろから、背中を丸めてついていく。玄関を出て、校門から少し入った所に立った。
わさわさと登校してくる生徒を、数人の教員が呼び止めては、目の前に立たせて睨め回している。登校してくる担当クラスの生徒の、頭髪をジロジロと見て判定を下す。
大抵の生徒は、担任がうなずきながら『合格』と言うのを聞いて、教室に向かう。だが、たまに茶髪などで、担任に注意を受ける者がいる。
幸い私が、頭髪検査をした女子生徒は、皆、『合格』の頭髪だった。よかった、と脱力する。朝からこれだよ。まだ授業もやってないのに。
これで、指導が必要な生徒がいたら、疲れは3倍だ。このまま、職員室に帰ればよかったのだが、ふと、魔がさした私は、山木先生の方を見てしまった。
男子生徒が一人、呼び止められているじゃないか。曇った眼の私が見ても、あの頭髪の色は、茶色い。アウトだ。よく見ると、指導されているのは、欠席日数の多い小林君だった。
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