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「髪を染めていないは、かっこ悪いし。みんなに馬鹿にされたりするし。短ラン着てるやつらも、そう言ってた」  短ランというのは、着丈(きたけ)を短く()めた学生服だ。この高校では、生徒の短ランは、服装検査で没収して、代わりに標準的な学生服を、貸し出している。  そっか、みんな、変わりたいんだ。標準服では、自分が頼りなく感じるのかな……。何も恥じる事は無いのに、そのままの自分では、受け入れられないと、感じてきたのだろうか。 「まあ、せっかくこの高校に入ったんだから、卒業は、してよね。でも在学中は、ルールを守ってよね。卒業したら好きにできるでしょ」 「先生、甘いなあ。卒業したら就職して、できないから、学校にいるうちにいろいろやっとくんだよ」 「ああ、そう……」  彼らは、社会の厳しさを、どこかで感じ取っているんだ。小林君の言葉に妙に納得した。  そうこうするうちに、山木先生が、黒染薬とシャンプー、リンスを持ってきた。 「赤葉先生、俺は次の時間授業なので、小林の髪染めを見てやってください。小林は、ちゃんと染めたら教室にいくこと」 「はーい」  小林君は、軽く返事をしたが、私は髪染めなどしたことがない。やり方がわかりません! どうすればいいの?  「先生、自分でやるから、いいし。あの、いらないカップとスプーンと大きなゴミ袋をください」  あたふたしている私を見かねて、小林君は笑いながら言った。そっか、髪染めは慣れてるんだ。私は、小林君の欲しいと言った物を、用意した。  小林君は、まず大きなビニール袋の底に穴をあけて首を通す。服を汚さないためだ。次に黒染薬の箱を開けた。中から小さな小瓶をとりだすと、カップに黒染粉末を入れる。そして、水を少しずつ加えてスプーンで混ぜる。黒染液のできあがりだ。小林君は、おもむろにその液体を頭髪に塗っていく。  私は、その慣れた手つきを、感心しながら眺めるのみだった。あらかた塗った所で、時間をおく。20分ぐらいで、流しのシャワーで髪を洗う。このときにシャンプーとリンスを使うようだ。髪は濡れているので、私のタオルを貸した。  見事に黒染完了だ。この黒染薬は、不自然なくらい黒く染まる。だれも、文句は言えまい。小林君は、理科準備室を出て、教室に向かって行った。
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