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①
どのような世界でも、正規の手続きをふまなくても、目的をなすことができる『闇のルート』というものがある。
一見、明るく、楽しく、若い生命力の迸る高等学校においても、『闇のルート』とよばれるものはある。
これは、その黒い闇に手を染めてしまった、私の昔話。
そう今から30年ほど前……。
私は、赤葉 和子。この高校に転勤して4年目になる。担当教科は理科だ。今年度は、3年1組の副担任をしている。
担任は、私より、少し年上で30代の男性教員。名前は、山木 幸三。
クラスは、担任が山木先生で副担任が、私、赤葉の二人で受け持っている。
この山木先生、超堅物だ。クラス経営における、意見の相違で毎年、副担任がかわっている。山木先生の堅物と頑固さについていけないと言って、副担任が1年でペアの解消を希望するからだ。
と言うわけで、今年は私にお鉢が回って来た。何で私が選ばれたかわからない。自分で言うのもなんだが、堅苦しいのは苦手なのだ。
『人間楽しく無事に一日が終わればいいじゃん』が私のモットーだ。
山木先生と組んで2か月になるが、今の所、仕事上の衝突はない。私としては、これからもずっと、仲良くやりたいのだが……。
朝の職員会議が終わると、生徒指導主事から声が掛かかった。
「今日は、今年度1回目の頭髪検査の日です。担任の先生方、生徒の頭髪のチェックを、よろしくお願いいたします。5月のゴールデンウィーク明けで、茶髪や金髪もいるかも知れんから、しっかり指導してください」
髭面で、がっしりとした体格の、生徒指導主事だ。いわゆる体育会系。私は、彼を見ると、いつも『鬼軍曹』という言葉を思い出す。きびきびとした言い方に、思わず『イエッ、サー!』と言いそうになる。『鬼軍曹』は、指をポキポキならしていた。
頭髪検査では、担任教員が、自分の受け持っているクラスの生徒の、髪型や髪の色をチェックする。
この高校は、他校に比べて、やんちゃな生徒が若干多い。
頭髪に問題のない生徒は、学校に入れるが、染色やパーマ、あるいは妙な髪型をしている生徒は、『直して、再登校しなさい』と言って、学校に入れずに家に帰すのだ。
時代が下ると、様々な権利が問題になって、このような指導はできなくなっていったが、当時は、ガンガンやられていた。
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