再び

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再び

 ある日。  私が帰宅すると玄関の靴が全部靴箱に入れられていました。  妻は昼に玄関の掃除をしたと言いましたが、結婚してから初めてだったんです。  妻はズボラで玄関の掃除の時も靴は出しっぱなしでヒョイって靴を持ち上げてホウキで掃くだけでした。靴を靴箱に仕舞う習慣がないのです。  そして靴箱をよく見ると、妻のお気に入りのサンダルが奥に仕舞われていて、可愛いローヒールのパンプスが一番取りやすい手前に置いてありました。  どこかに出掛けたか出掛ける予定があったんだと思いました。  顔を上げて、妻の顔をよく見ると珍しくしっかり化粧をして髪までセットをしていた。  それで確信した。 「何処か出掛けたのか?」 「いいえ」 「でも服も今日はお洒落じゃないか可愛いワンピースで」 「昼から少しだけ友達が来たから」 「女?、男?」 「おんなともだち、です!」 「そうか、ごめん」  私はなぜか謝ってしまった。  女友達という妻の言葉にトゲがあったからだ。  私も小さい男だとあの頃は何度も思って自分を責めていた。  気にし過ぎなんだと。  でも、ふと台所に行くと、来客用の湯呑みがキッチンの乾燥機の中にあった。彼女の友達は珈琲か紅茶好きだけだ。湯呑みは使わない。  まさかと思い来客用の和室に行くと、畳まれてはいたが敷き布団と掛け布団が押し入れから出されていた。  明らかに私が帰ってから慌てて畳んだだけって感じだった。  どう言うことだ。  しかし、この頃の私はそれを妻に聞く勇気はなかった。
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