倒れる

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倒れる

 12月上旬。  やっと朝晩は涼しく感じ出したと思ったら、あっという間に凄く寒くなっていた。もう真冬だ。  あの濃い食事を避けるため外食が増えていたが、やっぱり妻の料理が食べたくて家でも食べていた。  それにしてもストレスと外食のせいで短期間で7キロも体重が増えていて本当に私は困っていた。  浮腫みやすくもなっていた。    そしてある夜、私はトイレに行こうと起きたが、フラフラする。  きちんと立ったつもりが左にバタンとひっくり返る。  ん?、左側の体に力が入らない。  慌てて隣に寝ていた妻を起こそうとするが、舌が回らない。うまく話せないのだ。  これは脳梗塞か脳出血かもしれないと思った。  救急車だ。  早く呼ばなくちゃ。  私は妻を右手で揺すって起こした。  起きた妻もすぐに私の異変に気づいてくれて119番に電話してくれた。  私は怖かった。  殺される恐怖より、死ぬ怖さより、死んだら妻に会えなくなることが怖かった。  私は殺されるとしても、妻のことがこんなに大好きなんだと思った。  そしたら涙が溢れてきた。  妻も心配して物凄い形相で救急車を待って、寝室と玄関を行ったり来たりしていた。  救急隊員が来た頃には私はほとんど意識が消えていた。  それでも最後まで動く右手で、妻の手をつかんでいた。 「あいしてる!」  その言葉が、モジャモジャになって、絡んだ毛糸の束になって、  コロコロ、  ぽとんっ。  運ばれるストレッチャーから、  下に落ちた…気がした。
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