10日後

1/1
前へ
/12ページ
次へ

10日後

 10日後。  私は眠っていた。  少しずつおぼろ気に目が覚めてきたが私は目を開けず寝た状態を続けた。  そばで二人の会話が聞こえていたからだ。  あの声は妻と弟だ。 「兄さん、順調に回復していて本当に良かったね。後遺症も軽そうだし。両親も今度の日曜には顔を見に来るって言ってたよ」 「そうなんですね。もっと会いたいと思うけど私に気を遣われているのかな」 「それより、血液検査でいろんな数値が悪かったんだね」 「この人は最近は外食が多くて7キロも太ったって騒いでいたから、びっくりはしなかったわ」 「そうなんだ。倒れて貧相な顔かと思ったら真ん丸になっていたから最初は俺も驚いたけどね」 「うううぅーーーん」  私はこの辺で起きた振りをした。 「あなた、大丈夫?」 「兄さん、俺だよ、わかる?」 「大丈夫。わかるさ」 「少し頭を上げてくれないか」  そういうと弟が素早く看護師さんに聞いてベッドの頭の部分を少し上げてくれた。 「お前らだけか?」 「みんな仕事だからね、暇なのは姉さんと俺だけ」  ベッドから眺める二人は、不倫カップルには見えなかった。  この10日、二人はよく世話をしてくれた。  わからないが、私が本当に困ったら頼れるのはこの二人なんだとも思った。  人生とは無情で薄情なのかな。  夕方には、仕事帰りに会社の後輩の明智守が見舞いに来た。 「奥さん、男の人といたけど?」 「あれは弟だ、今までいて二人を帰らせたんだ」 「そうなんですね、でも仲良さそうでしたよ」  こんなことを言われるとイライラする。 「そう言えば、片付かなかったから失敗かなぁって奥さんが言ってましたよ?」 「弟さんも塩がどうとか?」  明智が言いたいことはわかる。 「そう言えば、思ったより話しも出来るし麻痺側の手足も、動くんですね。俺の伯父さんが脳出血やったんですけど右半身が麻痺で車いすです。先輩は運がいいです」  そうか、運がいいのか。 「あっ、お見舞いには林檎です。切る物が無かったのでペティナイフをここに置いて帰りますね」  そう言って、自分が切った林檎を1つ摘まんで明智は帰って行った。    
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加