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カメと海
砂浜にカメを作った。大きな大きなカメだった。
頭を水平線に向けて作った。頭の先が乾いてきた。その度に何度も何度もバケツに水を汲み、カメが干からびないように気遣ってやった。
カメは太陽に向かっては走れないようだった。目は虚ろで冷めている。それでも両手を精一杯広げて何処かへ行こうとする姿はどこか愛らしかった。
たくさんの友達と一緒に作ろうとしたカメはどんどん大きくなっていった。だがいつまでたっても一匹だった。友達は飽きて何処かへ遊びに行ってしまった。自分は追わなかった。
何処かへ行ってしまった友達は帰ってこなかった。カメを作った。砂浜に、砂で大きなカメを作った。
動くはずのないカメは、最後の一人がいなくなった後、何処かへ消えていった。
波の音がカメを連れていったのかもしれない。願った海原へ、あの大きなカメを連れていったのだ。
何年も後で思い出した。
この砂浜でカメを作ったのだと。
そこにはもう誰もいなかった。
砂浜に立っているとあの時作ったカメを思い出す。あのカメの顔と目を思い出す。
そして忘れていくのだ。
カメが消えていったように、この記憶も波に浚われて消えていく。ただ、そこに何かがあった気がする。
それだけを今は覚えている。
カメが見ていた海の先にはあっただろう。夢とか希望とか、未来とか明るいものばかりが広がっていただろうか。
頭から干からび、それでも望んだものが海の向こうにあったのだろうか。
残された波の音だけが砂浜へやって来て、海の向こうの砂浜へと辿り着くだろう。そしてまた、そこで何かを託されこの場所へ戻ってくるのだろう。
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