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そんな中において未だ私に対してなんの接触も図らない男がひとりいる。
「おい、金槌どこにある」
「へ? 金槌? 何に使うのよ」
「屋根の修理するんだよ。昨日降った雨で雨漏りしている処を見つけた」
「そんな処があったの?」
「あった。直すから金槌、寄越せ」
「……」
そう、七扇カイトだ。前出のふたりに押されていてすっかりその存在を忘れつつあったけれど、一応この男も私を手に入れるために此処にいる者のひとりなのだ。だが、しかし……
(気が付くといつもいないんだよね)
いつも家の中にいる八月一日宮やソルと違って七扇はいつも外にいる。夜は夜で食事を終えると自室に籠り其処から一歩も出ていないようだった。
私は七扇の行動に関心がなかった。だから八月一日宮とソルのふたりよりも七扇に対してはまだ心を開いていないところがあった。
(いつも何しているんだろう)
私から金槌を受け取った七扇は梯子を担いで外に出て行った。
興味心から後をついて行くとある場所に梯子を掛け器用に屋根に上って行った。それを見ていた私はそういえば屋根に上ったことなんかなかったなと思い、気が付けば梯子に手を掛けていた。
慣れない足取りで梯子を上っていると上からトントンと金槌の音が聞こえて来た。其処を目指して視線を這わせれば七扇が口に釘を加えながら屋根に板を打ち付けていた。
「慣れているのね」
「!」
梯子から声を掛けると七扇はギョッとした顔をした。そして口にしていた釘を離し「何やってんだ!」と大きな声を出した。一瞬ビクッと体が撓ったけれど目に映った景色に心が高揚した。
「わぁ…! 何、この景色」
其処から観た景色は私にとっては初めてのものだった。
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