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森の中にある一軒家だから周りは木だらけだったけれど青い空が地上よりもうんと近くにあった。
「おまえ、屋根に上ったことないのか」
ゆっくりと私の元にやって来た七扇は少しだけ表情を和らげた。
「ないよ。初めて」
「だったら余計危ない。ほら、もう下りろ」
それを訊いて先程出した大きな声は私を心配してからのものだったと悟った。
(相変わらず解り難いけどむやみやたらと怒鳴っている訳じゃないんだな)
七扇に慣れてはいないけれど、それでも最初の時の最悪な印象からはずいぶん軟化していた。
「もう少し眺めていたい」
「危ねぇよ」
「大丈夫」
「……」
私が一歩も引き下がらないと感じたのか、七扇は深くため息をついてから腰にぶら下げていた縄を取り出した。
「おい、登って来い」
「え、いいの?」
「仕方がない。おまえ、頑固だもんな」
「何それ。知った風にいわないでよ」
「そうじゃねぇか。人の忠告を聞かない」
不本意ないわれように少し腹が立ったけれど、それでも「ほら、来い」なんて促されるとその通りに従った。
初めて上った屋根の上から見る景色は壮観だった。
「気持ちいい~」
「いい~なのは分かったからあんまはしゃぐな」
「分かってる」
七扇が屋根の修理をしている傍らで小さく鼻歌なんかを口ずさみながら景色を楽しんでいた。そんな私の腰には縄が括りつけられていた。縄の先は七扇の腰へと続いている。これは七扇なりの気遣いだった。私の身を案じて簡易的な命綱を付けたという訳だ。
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