第1話 この私を追放ですって???

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第1話 この私を追放ですって???

side  精霊術師エメリア  グオォォオオオォォォオオオオオオオ!!!  サイクロプスの咆哮が響き渡る。  それに対し、黒髪に黒衣の男レオメルド・ラオべルグラッドは、無言で剣を振り下ろし、サイクロプスを斬り倒した。 「レオメルド、強いですね」 「ありがとう」  彼はずっとロデリグ大陸の魔の森で戦ってきたと言うだけあって、強い。  それにしてもサイクロプスを一撃とは、なかなか凄いです。  アホ勇者はもう少し手こずっていました。  グルルルルルルル 「プロテクト!」  ガキィーーーン  私は牙をむいて突進してきた赤黒い大型の狼を防御魔法で跳ね返します。  まったく落ち着きがないですね。   「いや、エメリア。キミこそ凄いな。プロテクトは防御魔法と言っても普通は物理攻撃を軽減する程度だろう?」  ふふふ。ちゃんと私の凄さに気付いてくれるのは高ポイントです。  そして彼は言葉を発しながらダイアウルフを斬り捨てて……いや、本当に強いですね。ステキです。  彼と一緒なら闇に覆われたこのロデリグ大陸を魔族から解放することだってきっとできます。いや、やってみせます! 「たくさん練習しましたからね。それに今回はこの子もいますし、ダイアウルフの攻撃くらいは防げますよ」  キュロ……キュピー!    私はエメリア・ノーザント。精霊術師です。  私の肩から可愛い声を出しているこの子はカーバンクルです。  私に懐いてくれている子で、なんとルーディア大陸から着いてきてくれた精霊です。    嬉しいことに、他にも2体の精霊様がついてきてくれました。  カーバンクルは常に防御力upやオートヒールなどが効くので発現させていますが、他の2体はお願いするときに出てきてもらいます。  また紹介しますので、楽しみにしていてくださいね。   「それは、カーバンクルだったか……ここまで着いてきてくれたことに感謝する。しかしエメリア。あれはダイアウルフではなく、上位種のエルダーウルフなんだが……」  ふふふ。エルダーウルフですが。だからダイアウルフより大きくて色も濃いのですね。    そして、レオメルドは律儀にカーバンクルにもお礼を言っている。  精霊にも意識があります。  直接声を届けられない人間の感謝でも、わかる精霊はわかりますし、実際カーバンクルの機嫌は良いです。  感謝どころか何の感情も示さず、ただの戦力扱いするアホ勇者とは違いますね。    私をパーティーから追放したあのアホ勇者とは……。  * * * * * *   「お前を僕のパーティーから追放する!」  なにを言ってるのでしょうかこのアホ勇者は……。  今日はオフだったはずなのに急に呼び出されて向かった会議室に集まっていたパーティーメンバーと、もう一人……エルフですね。  そんな中、部屋に入った私にいきなり人差し指を突き付けた勇者が言ったのが先ほどのセリフです。  彼は一応この国の王子であり、聖剣に選ばれた勇者でもあります。  そして悲しいことに私の婚約者でもあります。  どうせ浮気ばっかりしているのでしょうが……。   「はぁ、それは陛下も了承されているお話でしょうか?」 「父は関係ない!僕はこのパーティーのリーダーとして判断し、話をしている!」 「はぁ……」  ということは婚約は解消せず、パーティーからの追放だけと言うことでしょうか?  それは面倒なのですが。 「まぁ、お前が僕の婚約者なのはこのパーティーのメンバーの女性で公爵家の出身という理由だろうから、追放してほどなくすれば解消になるとは思うがな!」 「はぁ……」  意地の悪そうな顔をして言っていますが、私としてはこんなアホ勇者と結婚するのは嫌なので解消してくれるのであればその方がいいのですが。 「理由を伺っても?」 「はっ、理由など。魔族の四天王の1人・ダーウェルドを倒すのに間違いなくお前の精霊術……特に大精霊モルドゥカは役に立った。しかしその力は次の攻略先であるロデリグ大陸では役に立たないことが先日の探索でわかった。だからだ!」  なるほど。  確かに私は先日の探索において精霊術の多くを使うことができず、あまり役に立たなかった。それは認めます。  はじめて訪れたロデリグ大陸の魔の森では交渉可能な精霊がいなかったのです。  しかし、それは既に克服しているのですが……。  この大陸から仲の良い精霊についてきてもらえばいいのですから。 「そういうことで、すみませんねエメリアさん」  アホ勇者に代わって喜びを隠せない表情で私に声をかけてきたのは魔法使いのスーメリアです。  彼女なら嬉々として私を追い出すでしょう。  なにせ彼女の実家であるペリオリア侯爵家は、私の実家であるノーザント公爵家を目の敵にしています。  あなた方が降爵したのは横領と脱税のせいでしょうに。  しかしパーティーとしてそれで良いのでしょうか。  彼女ははっきり言ってあまり戦力にはなっていません。  王子である勇者が旅に出る際に、優れた精霊術師である私が選ばれました。  そして、戦士として優秀なディルクが加わりました。  私は彼の選出には全く異論はありません。  なぜなら彼はハルボス伯爵家出身であるにもかかわらず、貴族であることを隠して冒険者として活躍した実績があり、その力は騎士団でも比肩するものはいませんから。  一方で、スーメリアは政略的な理由で加わりました。  貴族の派閥のバランスを保つためだけに。 「わかったらさっさと出て行け!」 「今後精霊術は不要だと?」  一応聞いておきます。  私はもう出て行くことを決意しました。  どうせ従順なスーメリアや、そこにいるエロフと浮気をしているのでしょうし、この勇者(あほ)に未練はありません。  でも、後からお父様や国王陛下に問われることを考えてちゃんと言質は取っておきます。 「お前の精霊術は不要だ。なぜならここにいるラーヴェが協力してくれるからだ!彼女はなんとエルフの王族の血を引いている。精霊たちとも交信可能なのだ!」 「はぁ……」  澄ました顔で胸をはっているエルフがうざい……エロフめ。  ロデリグ大陸の魔の森には精霊がいないのですから、例えエルフの王族と言ってもこちらの大陸で頼んでついてきてもらうしかありません。  私と同じ条件のはずですが、それなのに私を追放すると言うことはこのエロフがアホ勇者に寝床で何か囁いたのでしょうか? 「それで私は不要になったということですね?」 「そうだ!やっと理解できたか!!」  やれやれと言った様子のアホ勇者の顔にパイでも投げつけてやりたい気分ですが、やめておきます。  ここまで言われて私がこのパーティーに残る必要性を感じません。   「では、わかりました。パーティーのお金や入手したアイテムについてはこの収納袋に入れていますので、私の分は差し引いてお返しします。転移の魔道具を扱う許可は個人に帰属するものなので、それはお渡しできませんので、そこのエ……ラーヴェさんでしたか……その方の許可はライエル様のほうでご申請ください」  危なかったです……エロフって言いそうになりました。 「ラーヴェに渡せないのか?」  やっぱりアホ王子で、アホ勇者ですね。  譲渡不可能なギルドカードに付与されるのにどうやって渡すのでしょうか? 「許可は国や神殿から譲渡不可能なギルドカードに付与されるのですが?」 「あぁ、わかってるさ」  ならなぜ聞いたのでしょうか? 「では、私はこれで……」  こんなとこにいても気分が悪いので失礼します。  勇者はさっさと行けという感じですし、スーメリアは私の声を無視。  ディルクだけは申し訳なさそうに頭を下げていますが、実家の爵位が一番低い彼には何も言えないでしょう。  エロフですか?すみませんが見たくもありません。  私はすぐに実家に帰り、お父様に説明しました。  お父様は憤ってくれましたが、もうあのパーティーに興味はないです。  しかしどうしましょうが……私は私自身の目標のためにもここで戦いをやめるつもりはないのですが……。
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