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そんなことを思ってしまった自分を戒めていると、父の声に我に返る。VIPをもてなすために建てられた、客室とは別の邸宅。きっと、一枚板の見事なテーブルを挟んで父は相手と向かい合っているはずだ。
「どうして私を?」
廊下で待機している私には姿は見えない。彼が今どんな反応をし、何を考えているかはもちろん知る由もないが、その声は冷たく聞こえた。
父の対話の相手は建築家の向井謙太郎氏。私はその名前ぐらいしか知らなかったが、今の時代、彼ほどの人ならば、その気になればほとんどの情報は手に入ってしまう。
確か年齢は三十一歳だったと記憶している。ビシッとしたひと目で高級だとわかるスリーピース。しかし、一般の会社員とはどこか違う、センスを感じる着こなし。髪型も今どきの緩やかなカーブを描いたダークブラウンだ。キリッとした二重の瞳は何を考えているかは読み取れない。それが昨日、私が初めて彼の写真を見た印象だ。
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