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盲目的に可愛がり、なんでも完璧だと思っていたなんて、娘の何を見ていたのかと思ってしまうが、そんなこと今言っても仕方がない。
その声を聞こえないふりをして、いつも通り背筋を正して目を閉じる。
いったん、父も茶が必要と思ったのか、何も言わなくなり私は精神統一を終えると目を開けた。
目の前の茶碗に抹茶を入れると、柄杓で湯を汲み静かに注ぐ。
静かな部屋に茶筅の音だけが響く。明らかに先生の視線を感じるが、心を落ち着かせて点て終わったお茶を、菓子と一緒に彼の前に置いた。
これで私の仕事は終わった。心の中で安堵してチラリと彼を見ると、意外そうな顔で私に視線を向けていた。
瑠菜と違い、冴えない私のお茶は気を悪くしただろうか。
一瞬そう思ったが、静かに礼をしてくれた彼に少し驚きつつ、私も頭を下げた。
一連の流れを見ていた父だったが、キッと私を睨みつけ、「瑠菜はどうした!」と小声で私に問うが、完全に彼にも聞こえているだろう。
「いませんでしたので」
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