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それだけを答えると、舌打ちが聞こえそうなほど苦虫を潰した表情を浮かべた後、いつもの作り笑いで彼に向き直る。
「先生申し訳ありませんでしたな」
機嫌を取るような物言いに、呆れつつ父から視線を外した時だった。
「謝罪される必要はありません」
慣れた所作で菓子とお茶を飲んでいた先生だったが、飲み終わりゆっくりと茶碗を置くと、背筋を正して先生は父に言い放った。
「え?」
その答えが意外だったのか、父が抜けたような返答をする。
真っ当な答えをしてくれた彼に、感謝しつつ下がろうとした私だったが、そんな先生に父が少し焦ったように言葉を続ける。
「先生、妹の瑠菜は、この子と違い器量がとてもいいので、先生にぜひ会っていただきたかったんですよ」
その言い方に私は少し含みを感じた。もしかして、父は先生を瑠菜の縁談相手にとでも考えているのだろうか?
「そうですか」
きっと先生も父の言わんとすることを理解しているはずだが、それだけを口にした。
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