知らないのは君の方

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「俊ちゃんは自転車乗らないの? 大学まで自転車だったら速いのに、歩いたら15分はかかるでしょ?」 「マンションに自転車置き場ないから。毎回部屋まで階段を持って上がるとか面倒」 「3階だもんね。でもわたしは俊ちゃんと一緒に大学行けるから嬉しいけど」 「お前が待ち伏せしてるから一緒に行ってるだけだろ」 「あー、そっかぁ」 彩葉が少寂しそうな顔をしたので、焦る。 「今日、カレーの気分なんだ。カレーって、たくさん作らないと美味くないじゃん。でもそうしたらカレー続きすぎて飽きるから、彩葉、食べに来いよ」 「いいの? この前のパスタも美味しかった」 「あの時は、麺を茹で過ぎて仕方なくだから」 「わたし、俊ちゃんの隣の部屋で良かった。お母さん達に感謝しないといけない」 「彩葉の料理は破壊的だもんなぁ」 「……わたしが料理上手だったら、俊ちゃんに作ってあげられるのに」 「いいんだよ、料理は得意なやつがやれば。俺、掃除は苦手だけど料理は好きだし」 「じゃあ、カレーのお礼に俊ちゃんの部屋、掃除するね」 「ほら、ちゃんとギブアンドテイクできてる」 「ホントだ。良かった」 彩葉とは中学に入る少し前に、彩葉の家がうちの隣に引っ越して来てからの付き合いになる。 母親同士がやたら意気投合して、家族同士で出かけたり、ご飯を一緒に食べる仲になった。 いつからか彩葉は俺のことが好きになっていて、誕生日やクリスマス、修学旅行に文化祭、とにかくイベントごとに告白してきた。 一方の俺も、彩葉がずっと好きでいる。 それなのに、中学の時初めて告られたのが、球技大会の後で、周りにクラスのやつが何人かいたせいで、本当は超がつくほど嬉しかったのに、 「ありえない」 と、突っぱねてしまった…… それでも彩葉はめげることなく、夏休み前にも告ってきた。 その時は、彩葉の後ろに部活の先輩がいて「1年のクセに彼女作ろうとか生意気なんだよ!」という目で睨んでいたので、 「ないから」 と、突っぱねてしまった…… こんなヘタレな俺なのに、彩葉はずっと好きでいてくれる。 地元に建築を学べる大学がなかったことから、県外の大学に進学を決めた俺の後を追って(多分)、彩葉も同じ大学を志望した。 お互いの両親が「隣同士の方が何かと安心よね」と、俺らが合格すると勝手に住むところを決めてしまった。それで、彩葉と俺はまた隣同士で住むことになった。 彩葉がくしゃみをした。 「彩葉に風邪ひかれたら俺が面倒みなくちゃいけなくなるんだから、気をつけろよ」 「うん」 「じゃあな」 大学の正門を入ると、食堂の入った建物を挟んで、工学部の俺は右の校舎、文学部の彩葉は左の校舎になる。 「帰り、一緒に帰れる?」 「今日は無理……そっちの方がだいぶ遅いだろ? 先に帰る」 「……そう、だよね」 「カレー作ってる」 「じゃあ、急いで帰るね!」 「勝手にどうぞ」 彩葉の姿が見えなくなるまで見送って、振り向くと、同じ建築科の岩崎歩が立っていた。
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