知らないのは君の方

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靴を履くと、玄関のドアを開けずに立ったまま待つ。 いつもの時間まで数秒。 3 2 1 ピンポーン その音で玄関を開けると、宇佐見彩葉(いろは)が目の前に立っている。 「おはよう、俊ちゃん!」 「ストーカー」 「何で?」 「俺が家を出ようとしたらピンポンが鳴った。タイミングやばいだろ」 「偶然も重なれば運命だよ」 「そんなわけあるか」 彩葉は俺のことが好きだ。 思い上がりじゃない。 何度もそう告白されている。 けれども、どうして、俺のどこが好きなのかわからない。 背が高いわけでもイケメンというわけでもない。ごくごく普通のその辺に転がってそうなやつでしかないのに。 「今日、雨降るよ!」 「だったら折り畳み持って出る」 玄関の靴箱の上に置きっぱなしになっていた折り畳み傘をリュックにつっこんだ。 「お前のそれ、よく当たるよな」 「髪の毛が、ふくらむから」 彩葉は俺の方を向いて微笑んだ。 天パだから雨が降る日は髪が広がってしまうのでわかるらしい。 彩葉は緩いウェーブの長い髪をいつも結んでいる。 俺は、髪の毛を結んでいない彩葉もいいと思うのだけれど、それを口に出して言うことはない。 最初でつまづいてしまったから。 彩葉にはもう何度も「好き」と言われている。 けれども、最初に言われたのが中学生の時で、周りにからかわれるのが嫌で、思いっきり突っぱねた。 そしてそれを撤回する機会のないまま、大学生の現在に至ってしまった。 8f5f0e75-6686-4164-9dfc-968a17005369
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