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シャワーの湯を全身に浴びながら、えりかは黒い影の事を振り返った。
『一体何だったんだろう…あれは人間なの?とてもそうは思えない…幽霊なの?…なんで私を追ってきたの?………ひょっとして!』
えりかはシャワーの湯を止めた。
『…………いや、そんなはずはない…。幽霊なんて、いるわけないよね。きっと幻覚だ。仕事で疲れ過ぎてるだけだよね。そうに違いない…』えりかはそう自分に言い聞かせ、再び水栓を回した。
身体中の汗と共に、仕事の疲れと数分前の身の毛もよだつ恐怖を洗い流していく…。
えりかが顔を洗おうとして口の中に湯がに入った瞬間、何やら不快な味がした。と同時に、強烈な生臭さを感じた。
「うっ‼」えりかは嘔吐した。
見ると、シャワーから黒ずんだ水が流れ出ていた。そして、黒い水と一緒に赤いものが混じっていた…血だ。
えりかは浴室から飛び出し、バスタオルで黒く塗れた身体を拭うと、ベッドの隅に縮こまって泣いた。これは悪夢なのか現実なのか、えりかは目の当たりにした光景に錯乱した。
べちゃ…べちゃ…べちゃ……………あの音が部屋の中で聞こえていた。えりかは顔を上げた。暗い部屋の中、不気味な黒い影が立っていた。黒い影はその場でえりかの事をジッと見ていたかと思うと、じりじりと彼女の方へと近づいた。えりかは逃げたくても、足がすくんで立ち上がる事が出来ない。近づくにつれて、影の姿が段々と顕在化し始めた。それは、全身泥にまみれた人間のようだった。泥人間は、ベッドに上がってえりかに覆いかぶさると、黒い手で彼女の両肩をグッと掴んだ。
「…だしてくれ…ここから…だしてくれ…」泥人間はかすれた声で繰り返しそう言った。
えりかは押し離そうと泥人間の顔に手をやった。その瞬間、顔についた泥が落ちて、その下から泥人間の素顔が現れた。えりかは戦慄した…。
「だしてくれ…だしてくれ…」
「……ごめんなさい!…ごめんなさい‼許してお願い‼」えりかが泣き叫ぶと、泥人間は静かに消え去った。
恐怖で高ぶった気をどうにか静めたえりかは、スマホを取り出し、どこかへと電話をかけ始めた。
「……もしもし、あの…私、人を…彼氏を…殺しちゃいました…」
アパート近くの更地から、彼氏の死体が発見された…。
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