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――廃墟萌え?――
城南大学の現代企業論の講義中、僕の隣の席で美姫はインスタに投稿された写真を眺めていた。タップしては、次々に表示される廃墟を眺める事を繰り返している。
ふいに美姫の指が止まった。
好みの場所でもあったのかとチラッと覗き見て、ハッとした。知っている場所だったからだ。
もうずっと前に閉鎖された、海辺の市民プール。あちこちの壁が崩れて、青い壁の色も褪せている。
けれど底がみえないほど深いプールには、青く澄んだ水が満ちている。割れた床に生えた海藻はゆらゆらとたなびき、魚たちの楽園になっていて奇妙な美しさがある。
「ねえねえ、牧江くん。見て。すごくない? なんか雰囲気あるよね?」と携帯の画面を僕に見せながら、美姫が話しかけてきた。その名のとおり可愛い。控えめに言ってタイプだ。
席が隣なのは、教授の気まぐれな席替えのせいだったから、美姫と話すチャンスはもう二度と訪れないかもしれない。僕はクラウチングスタートを切りそうな心臓をなだめ、なんでもないような顔で美姫の興味を引きそうなネタを披露した。
「あー、ここ。海水を利用する水路が開放されたままになってるから、溜め池みたいになってるんだよ」
「えっ、そうなの? なんで知ってるの?」
「地元なんだ。子供の頃、泳ぎに行ってたよ」
「うそっ! ここで泳げるの? 行きたい!」
まさか行きたいと言われるとは思っていなかったので、言葉に詰まった。
確かに、子供の頃に泳いだのは嘘ではない。
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