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 僕と美姫、それにそれぞれの友達の4人で廃墟プールに行った日は、よく晴れていた。  廃墟プールは水が澄み、海藻がすぐそばに見えるから、深くないように見える。けれど実際の水深は5メートル。まるで美しく作られた罠みたいだ。 「きれーい!」 水着にパーカーをはおった姿で、美姫が声をあげた。 「いい天気でよかったね!」と答えたのは、美姫の友人の朱莉(あかり)だ。 「すげえな、ここ。アニメの世界みたいだな」 と、(けい)が興奮して周りを見回す。そして「ヒャッホー!」と走り出し、プールに飛び込んだ。  ザバンッと大きな水しぶきがあがり、すいっと少し泳いで顔を出した。 「すっげー、綺麗。本当に海水なんだな。しょっぺぇ」と慧が唇をペロリと舐めて笑う。 「待て、言っておくことが」と言いかけたが、潜ってはダメだと注意する声は、美姫の「私たちも泳ごう!」と言う声にかき消された。  美姫がパーカーの袖から腕を引き抜いた時、ポケットからスマホが飛び出してプールに落ちた。あっという間に沈んでいく。 「あ、やだっ」  美姫が慌ててプールに飛び込んだ。朱莉と慧も美姫を追いかけて水に潜った。  上から覗くと、水中で海藻がさわさわと三人に戯れるように触れているのが見えた。やがて海藻が三人の足首に絡み付いた。  慧が気が付いて、三人の足に巻き付いた海藻を引きちぎる。美姫がスマホを掴み、全員が無事に浮上してきて、ほっと息をつく。  よかった。やっぱり噂はただの作り話だったんだ。  三人の笑顔にシャッターを切った。それは何気なく撮ったのに、まるで楽園のような写真だった。
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