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電車待ちのホームで、ふと、近くの人に視線が向いた。
直射日光こそ当たらないが、湿気のせいで腹の底から蒸されそうな状態。こんな環境なので、誰もが当然のように汗をかいている。
その人も汗をかいていて、そのせいでうっすら服が透けていた。
年齢は五十前後くらいのおじさん。服が透けたとしても、女の子じゃないから見てもいいか…という訳にはいかない。老若男女、人様をじろじろ見るのは失礼だし、そもそもおじさんの服が透けるのを見たい趣味はない。
だけど視線が外せない。だって、透けてるのは服だけじゃないから。
おじさんの体を通過して向こう側の景色が見える。
何度見返しても見えるんだ。気のせいじゃすまない。
このおじさんはもしかして幽霊なのか? だとしたら、俺は怪奇現象の現場に立ち会っているということになるが、その割には背筋一つ冷たくならない。
ただ、もしこのおじさんが同じ電車に乗るのなら、それを見送って、この暑いホームに居残ろうとは思った。
透ける人…完
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