寝台列車「北斗星」の悲劇

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「わしが『北斗星』に乗っておったときのことじゃ。偶然にも同じ車両の個室で殺人事件があったのじゃ。まあ、犯人はすぐに捕まったがの」 「それはつまり、あの島での事件のように喜八郎さんが持ち前の推理力で解決したんですね?」目を輝かせてたずねる。 「いや、わしの出る幕はなかった。犯人はあっさり警察に捕まったわい」  予想外の展開で少しがっかりした。これでは新聞に載っているような事件とかわりがなさそうだ。 「今、『そんな話か』と思ったじゃろ。諫早殿は隠し事が下手じゃからの。まあ、そう早く結論を出すでない。あれは今と同じように厳しい冬のことじゃった。わしは旅行で北海道の名所を巡った。小樽や札幌などじゃ」 「わしは札幌での観光を終えると『北斗星』に乗り込んだ。わしは一人旅じゃったから、一人用個室を利用したのじゃ。その晩のことじゃった。函館を出て少ししてからのことじゃ。突然、悲鳴が車両中に響き渡った。当然、皆何事かと部屋から出てくる。何が悲鳴の原因かは明白じゃった。ある個室の前にうら若き女性が立ちつくしておっての。その個室の扉が開いておって中をのぞくと――血まみれになった老人が倒れておった。つまり、殺人事件が起こったわけじゃ」  今のところ、喜八郎さんの言うことは普通の事件と同じだ。 「でも、その事件の犯人は警察が捕まえたんでしょう? 僕にはどこが興味をそそる話なのかまるっきり分からないです」 「そう決めつけるには早すぎじゃ。最後まで聞いてから判断しても遅くはなかろう」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加