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「ごめん、日向…ちょっと行ってくる」
「え、あ…うん」
拾った分のボールをカートに戻してから田中の後を追った。
コート脇の通路からグラウンドに向かう。野球部の集団の中に田中の姿は見当たらなかった。まさかと思い保健室に行ってみると、指を冷やしている田中がいた。
「どうした…もしかして庇い切れてなかったか⁈」
「ごめん…どうしよう、私のせいで。あんた野球部なのに」
「…俺の心配して来たの?」
「だって田中、レギュラーじゃん…」
「大丈夫だって、問題ない。どうにかならない様に早めに対処してるだけだから…気にすんな」
「…本当に?」
「あぁ」
「絶対に?」
「あぁ」
「命かけて?」
「あぁ」
田中が顔をくしゃくしゃにして吹き出す。
「良かった…」
「俺も良かったよ、手ぇ出せるトコにいれて」
「…じゃ、私もう戻るね」
「もし玉砕したら、俺にしろよ…」
私にだけ聞こえるくらいの小さな声で、田中が言った。
私は聞こえなかったフリをしてそのまま保健室を出て行った。
"俺にしろよ…"
田中の事は好きだけど、正直そんな風に見た事はなかった。そして多分、これからも…。
恋って難しいね。
本当に面倒くさいよ。
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