31. クリーミーな山の幸

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31. クリーミーな山の幸

 薪に適したドングリの森まで、二人は手をつなぎながらお花畑を歩く。色とりどりの花に包まれ、かぐわしい芳香が気分を華やかにし、歩いているだけでも楽しくなってくる。なぜここだけこんなに花が咲いているのか不思議だったが、セリオンに聞いても分からない様子だった。  ドングリの森についたソリスは、あちこちに力任せにへし折られた巨木があるのに唖然とした。きっと薪にするために力任せに折り取ったのだろう。 「とんでもない怪力だ……」  ソリスはそうつぶやき、首を振る。  こんなの到底真似はできないが、自分らしく美しい薪を作ってやろうと気を取り直し、一本の立派なクヌギの木に向けて剣を構えた。  すぅー……、はぁぁぁぁ……。  呼吸を整え、太い幹に狙いを定める。レベル125の世界最強の女剣士の剣気はすさまじく、刀身は徐々に黄金の光を帯び始めた。  セイヤーッ!  目をカッと見開くと、目にも止まらぬ速さで剣を振りぬくソリス。  鮮烈な光を放ちながら、剣気の輝きが太い幹を斜めに貫いた――――。  直後、幹は斬り筋に沿ってズズズ……とずれ始める。  ヨシ!  ソリスは満足げに目を閉じ、剣を(さや)にカチっと収めた。  クヌギの幹は地響きを伴いながら、轟音と共に大地へと崩れ落ち、ソリスはニヤッと笑いながらセリオンに振り向く。 「すごーーい! おねぇちゃん、凄い!」  セリオンは目を丸くしてパチパチと拍手をしながら駆け寄った。 「ふふーん、()めて褒めて!」  ソリスは上機嫌に腰に手を当て鼻高々にドヤ顔でセリオンを見る。 「うん、すごい! 僕がやるとこんな風にならないからなぁ……」  セリオンは感心したようにツルツルの切断面をなでた。        ◇  枝を刈り、幹を家の裏手まで力任せに引っ張って持ってきた二人は、今度は薪割りに精を出す。  ソイヤー!  ソリスは真上から真向(まっこう)斬りで、丸太に剣を叩きこむ――――。  パッカーン!  いい音がして丸太は一刀両断にされて飛び散った。 「うわぁ、すごいすごーい! 僕にもやらせて!」  セリオンは碧い目をキラキラと輝かせ、ソリスに剣をおねだりする。 「いいけど、気を付けて。力の入れ方間違えると危ないからね」 「やったぁ!」  ソリスはセリオンに剣を握らせ、握り方やフォームを手取り足取り教えていった。 「下腹部に力を入れて、(つか)を前にすっと出し、そこから手首のスナップで刀身をくるっと回し、その勢いで真下に斬り降ろす……分かった?」 「えっ? こう……かな?」 「上手上手! じゃあ、ちょっとやってみよう」  まずはソリスも一緒に剣を握ったまま、丸太に向けてゆっくりと剣を下ろしていく――――。  カン!  剣は美しい軌道を描きながら丸太に食い込み、ピシッとひびが入る。 「分かったね? じゃあ、一人でやってみよう!」 「よぉし!」  セリオンは上段に構えると、じっと丸太を見定める――――。  そいやぁ!  碧い目をキラリと輝かせると、刀身を丸太へと打ち込んだ。  ヴィィン……。  丸太に当たった剣は鈍い音を立て、セリオンの手からすっぽ抜けてしまった。クルクルと回りながら跳ね返ってくる剣――――。  わぁっ!  焦ったセリオンだったが、ソリスは冷静に回る刀身を指先で(つま)み、軽やかに受け止めた。 「こらこら、剣を手放しちゃダメよ」  ソリスはセリオンをたしなめ、サラサラとした金髪を優しくなでる。 「ご、ごめんなさい。僕、向いてないかも……」  セリオンは口をとがらせ、うつむいた。 「薪割りは私がやるから、割ったのを積んでいってね」  うん……。  セリオンは可愛いため息をつくと、残念そうに散らばっている薪に手を伸ばし始める。  すると、薪に開いた穴から白い何かがうごめいているのを見つけた。 「あっ! カミキリムシの幼虫だ!」  目を輝かせるセリオン。 「よ、幼虫……?」  ソリスは思わず後ずさる。ソリスにとって虫は天敵なのだ。  セリオンは嬉しそうに幼虫を引きずり出すと、グミを食べるようにパクっと口に放り込んだ。 「うほぉ……、美味しぃ……」  恍惚とした表情で美味しそうに幼虫の旨味を堪能するセリオン。 「え……? 食べ……ちゃったの?」  ソリスは虫を美味しそうに食べているセリオンを見て、固まった。まさか虫を食べるとは……。 確かに田舎の人は虫を食べるというのを聞いたことがあるが、こんな可愛い子供が美味しそうに食べているのを見ると、複雑な気分になってしまうソリスだった。 「ん? おねぇちゃんも食べる?」  セリオンは散らばっている薪の中から次の幼虫を見つけると、嬉しそうにつまんでソリスの顔の前に出した。  ひぃぃぃぃぃ!  ソリスは全身に鳥肌をたて、慌てて逃げ出した。 「あ、おねぇちゃん、虫がダメなんだっけ……。美味しいのになぁ」  セリオンはそう言いながらまた幼虫を口の中に放り込む。  その後もセリオンは幼虫を見つけるたびに美味しそうに食べ、ソリスは後ろを向いて見ないようにしていた。          ◇  夕方には全ての丸太が山盛りの薪になり、小屋の裏手に積んで野ざらしにしておいた。こうやってしばらく雨に晒した後、薪の棚に入れて二年ほど乾燥させて出来上がりらしい。  ソリスはこんもりと積み上げられた薪の山を眺めた。これで一年分にはなっただろう。額の汗をタオルで拭いながら、セリオンの役に立てたことを嬉しく思った。 「おねぇちゃんのおかげでとても助かったよぉ」 「ふふっ、どういたしまして!」  ソリスは嬉しそうに笑うセリオンの頭をやさしくなで、ニッコリと笑った。
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