Trickster.

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Trickster.

 三号溜池絞殺事件は、美人さんの全裸溺死体のセンセーションと、早くも迷宮りの雰囲気が漂い、情報番組が駆けつけた。ただそれも1週間で終了した。  それはそうだ、七五三町民が頑なに口を開かない。誰もが被疑者ではないが、一路瑞稀さんの全てを知っており可哀想過ぎるで、何一つ語る事はない。  ただ、どうしても無礼者はいる。考察好きの動画配信者だ。俺が犯人を捕まえて見せる、違法な私人逮捕は厭わない、はっ倒しの大人だと俺でも察する。こちらも、まだ事件から日の浅い5月でも手掛かりも無く、町に娯楽も何も無い事から、暇を持て余して七五三町から退散した。  ◇  ただ、6月に動画配信者の大物が来た。動画配信プロデューサー兜丸と、インフルエンサー矛先麻員の男女ペア。それを知ったのは、羅々がこれと、うんざり顔で、スマホの配信動画を差し出す。それはど酷く愚弄したものだった。  長身ファッションモデリストが矛先麻員が、雨の日に、赤い傘、赤のピンヒール、そして全裸で、七五三町の事件現場周辺を練り歩くものだった。被害者一路瑞稀さんの雨の全裸練り歩きを、どう調べたか再現するものだった。ただ全裸も、画像編集で性器にはぼかしを入れている。兜丸はこれなら犯人を誘き出せる。矛先麻員は女性の敵絶対許さない。  何を言ってるかさっぱり分からない。俺達は昼休みにぐうの音も出ない。ここで正義漢の中馬亮司が憤る。絶対に許せない。  生来亮司は、そこ迄黒か白に拘る方ではなかった。ただ小学校5年生の冬の深夜に、貸家が火事になり、亮司は脱出するも、生母石黒夏美がそのまま焼け死んだ。そして、父親筋の子供のいない親戚、町長中馬重治の養子になった。生母の不慮の死と、高貴な町長の養子になったら、正義漢しかない生き方に変わるかだ。それでも亮司は亮司だ。  そんな亮司から、夜にトークが来た。あいつら霧原展望台の駐車場に車中泊してるから、シメに行く。四十万は麻員を拘束バンドで後ろ手にしてキツく縛ってくれ。嫌だ、それ人がいないからって犯罪だろ。亮司から、一言頼む。俺はその短い言葉を察した。一人だとしばき倒すに違いない。  そう七五三町には、今は旅館は3つしか無い。しかも家族経営で、お馴染みさんしか泊めないから、霧原展望台の駐車場は、初見さんの車中泊の基地になる。  七五三町としては、駐車禁止の取り締まりをすべきだが、やむ得ないお目溢しはしている。今回ばかりは警察に丸投げしたいが、それでは亮司の溜飲が下がらないと思って。ある提案を返信した。明日土曜日は終日雨だから、全裸巡回中を捕まえ、亮司が一言申して警察に引き渡そう。亮司は分かったで終える。  ◇  翌日土曜日の10時。ザアザア振りでは無いが、梅雨の鬱陶しさが滅入る。  俺と亮司は、いつもの海岸沿いの熊代神社停留所で合流した。俺達は知り合いグループトークで、邪魔者どこにいるかの協力を求めた。即時に3つのレスポンスがあった。霧原海水浴場予定地で誰かが撮影している。俺達は走って5分の距離をダッシュした。  そして霧原海水浴場予定地で、チャラい兜丸と、全裸インフルエンサー矛先麻員の撮影隊を難なく見つけた。  何をやってる、あの最中かだ。  こんな雨の中、誰もいないとは言え海岸で、赤い傘を被りながら、矛先麻員が赤のピンヒールのみの全裸で、屈みながら、兜丸のペニスをあんぐり咥え、フェラチオをうっとり堪能している。何の旅情だよ、全く。  それを兜丸が動画撮影している。矛先麻員は、頬を張り詰めたり窄んだり、激しいディープスロート音が響く。こんなの、18禁の動画トレラーでも見かけない、この上の無い下品さが炸裂している。  そして兜丸が、イクッと猛ぶと、麻員がコッテリしゃぶり終え、高らかに叫ぶ、凄いコッテリしてる。撮影向けとは言え、何の事やらだ。  こういうSEXは、18禁トレーラーはつい同級生に見せられて、まあなだけど。いざ現実を目の当たりにすると、余りの光景で気を失いそうだった。  俺の右手はポケットのスマートフォンに伸びる。手順を早めるべく警察に電話と思ったが、亮司が傘を投げ捨て砂浜を走る。ブン殴るのはまずいと思ったが、亮司が向かったのは矛先麻員だった。  亮司は、麻員の長い髪を右手で巻きつけると、右腕を振り回し、イヤを連呼させる。そしてピンヒールが砂浜に埋まるとバランスを崩し倒れた。 「下品なんだよ、とっとと出ていけ。人がいないからってナメるな。オラ!そんなペニスが好きかよ、汚れてる、穢れてる、このメスが、出ていけ、出ていけよ!オラ!出ていけ!」  亮司が尚も、麻員の長い髪を持ったまま引きずり回す。素っ裸の麻員は砂塗れで金切り声を上げる。  そして、口からは涎と精液が吹きこぼれ、だらしない。しかも容赦無く振り回しているから、視線がもう泳ぎ、目がひん剥いて、今気を失った。  ちょっと待てよ、兜丸助けないのかよと思ったら。興奮してカメラを一切逸らさない。もっとだ!。その下劣な言葉に、俺がショルダーアタックした。  俺の細い右腕が振りかぶったところで、亮司のウッツの声が聞こえた。失禁失神した麻員の傍で、亮司の膝が震え、股間を必死に抑えている。そして、背中が泣いている。  ピーー!警笛が捲し立てる様に鳴った。雨ガッパを来た駐在さんが来た。ついてる。  こうして、9時12分、兜丸と矛先麻員が軽犯罪法違反で現行犯逮捕された。そしてそのまま、巴市警察署に送致され豚箱に送られた。  ネット記事に巴市警察署発の戒めの速報が上がる。大物迷惑動画配信者逮捕、兜丸と矛先麻員は好奇の的になり、散々叩かれた。痛ましい事件を更に痛ましくして蔑ろにしている。  もっとも、警察の方も事件のあらましを知っているので、事件当初から被害者の一路瑞稀さんの顔写真は公表していなかった。ここは警察は警察たる所以しかない。  いや、いかがわしい兜丸と矛先麻員が逮捕されたのは良いが。亮司が真っ先に向かった先は全裸の麻員、そして俺も兜丸に体当たりした事で、保護者が来る迄、俺達は交番に留め置かれた。  最速で来たのは、亮司の養母中馬香津美さんだ。亮司が堪忍袋の尾が切れた時に、困り顔もせず、今回も亮司を諭しては引き取る。俺はになったが、名士の顔馴染みの香津美さんが来たから、もう良いよになった。  ◇  俺達は、香津美さんの運転するBMWに乗せられ、亮司の大邸宅に連れて行かれた。家族3人で住むには広いが、養父中馬重治が町長である事から、何かとブレーンが宿泊しているらしいので、それはあるべきスペースらしい。  その中馬家の七五三町の立ち位置はこうだ。江戸時代からの名士で、七五三町の運輸系会社一手を担う。配送トラック、タクシー、県営バスの委託もされている。人口が少ないとは言え、町の出入りを一手に担い、日銭も途切れない事から、名実ともにあるべき家系になる。  田舎の町長は名誉職になりがちだが、中馬重治町長はその働き盛りを、政務に全身全霊で挑んでいる。亮司も感化されて空回りするのは若さと思っていたが、もう次はないなと気を引き締めていこうを決めた。  そんな俺達は、ずぶ濡れの砂まみれでも、臆される事なく磨かれた中馬邸の廊下を進み、そのまま大浴場に通された。  脱衣所には着替えの服が用意されていた。香津美さんは、亮司の衣服を脱がしながら、母親の顔になって下着も脱がし畳んだ。仄かに栗の香りがしていたのは精通していたのかだった。  大浴場には既にお湯は張られている。そして香津美さんはいつもの様に均整の取れた肢体が見て取れる、タンクトップにショートパンツで、俺達をシャワーでザーと流し、大浴槽へと案内する。とにかく浸かって頭を和らげなさいと諭されるまま、温めの大風呂に浸る。熱さは程々、全身が緊張から解き放たれる。  そして、香津美さんがおいでなさいと、しでかした俺達に優しく湯船に上がる様に促す。  そして俺達は並んだ風呂椅子に座らされる。これは小さい時から香津美さんが、俺達の二人の身体を丁寧に洗う。今も変わらずだ。  そうだ。亮司と俺が、何か危険な事をやらかすと、香津美さんに、お風呂に連れ込まれ、厳しい言葉も自然と和らぐ事から、ここはある程度の配慮がされている。まず全裸だったら、俺達が抵抗も何もしようがない。亮司、四十万、あなた達、阿呆じゃないでしょう。全裸だったら抵抗も嘘もつけようもない。背中をゴシゴシ洗われると、はいになる。前も同様に。思いっきりお手上げだ。  亮司が丁寧に前を洗われている。今日は不慮に精通もしたことから丁寧に洗われる。涙か汗か蒸気か分からないが、亮司が戸惑いを見せている。  香津美さんはまず、細面の美人の後妻だ。亮司とは血の繋がりも一切無いのに、亮司は成長期から何も身体が反応しない。所謂勃たないだ。そこには、亮司が母親から虐待され続けた経緯も有り、そうか、そうなんだなの認識がずっと続いている。  俺も、この大浴場での記憶から起立する。俺は中学1年の頃に、つい香津美さんに全身を洗われると、初めて精通してしまった。どうしようと動揺したが、これは普通の男子だからと、優しく諭され、そういうものかになった。  そして、四十万ねと。香津美さんに背中をゴシゴシ洗われ、前もと、俺の股を強引に開き割り込む。いや今日は特大にしでかして、流石にだったが、そのフローラルの色香は相変わらずで、俺は起立したまま明け渡した。  恥ずかしいの羞恥は、小さい頃から見られているし、それは無かった。ただ身体は思春期で自然に起立してしまう。そしてペニスが、どうしようもなく熱り勃つと、亮司に見えない様に握られ、圧倒的な柔らかさを5擦りで、行っ、とつい我慢した声を出すと同時に、浴場床に精液が飛び散った。  亮司の視線が、俺に届く。母親を取られたのそれではない、何か悔しさを帯びたものだった。香津美さんに男性扱いされるかに、四十万勃つのかよの、どうしようない男性の入り混じった嫉妬だった。同学年の男性にしか分からない、置いて行かれた寂しさ。成長期なら仕方無いだろう。それを訴えようにも、亮司と目を合わせる事は出来はしない。  そして、香津美さん促され、俺と亮司は大風呂に再び浸かる。遅過ぎる昼食を作ってるから、ゆっくり浸かってね。 「俺達何か、悪いことしたか」 「法律だとアウトだよ。亮司、暴力は良くない」  亮司はそれから、押し黙って、唇が震えていた。  それから共に風呂から上がると、味噌焼きうどんと焼きおにぎりをガムシャラに食べた。二人、共にその必死さから、香津美さんが大笑いされる。おかわり、それも分かってましたと、俺達の勢いは止まらない。  ただ、亮司は俄然不機嫌に戻り、しょうもない世間話で打ち解ける手順を踏む。俺達の定番の昔話あれこれ。そして亮司が珍しく、虐待時代の話を切り出す。  重治父さんが金持ちだから、あの阿呆女が取り巻きになる。しょうもない。そして、養母中馬香津美が嗜める、産みのお母さんを悪く言っちゃ駄目でしょう。  香津美さんは、中馬重治町長の2番目の妻で、重治さんが実子が欲しくて結婚した。ただ香津美さんは、一度流産してから子供が出来にくい身体になっていた。  ここからは皆のヒソヒソ話で聞いたが、香津美さんの実家は四日市の大きな鉄鋼会社の三女で、離婚しようものなら、中馬重治町長のコネクションが無くなる。そんな時期に、亮司が身寄り無しになったので、晴れて養子になった。  そう亮司の未来は、はえある中馬家の時期当主で、何なら若き七五三町町長の椅子も待っている。  ただ亮司には、俺達と中馬家にしか分からない秘密がある。件のお察しで、男子として勃たない。何があっても。  亮司本人曰く、実母の虐待で、女性が性の対象なり得ないと吐露される。俺もそれとなく同情する。俺達思春期だから、いつか勃つよ。  そして何より、亮司を嫌いな女子はいない。いつか加古美輪子が振り向くさ。香津美さんが無邪気に喜ぶ、美輪子ちゃん良い、可愛い。いやそこは、捻った可愛さだが、大括りでは、まあ可愛いか。  ただ、俺は敢えて言わないが、加古美輪子が一生ボーイッシュで、女性の色気を醸し出さないなんて有り得ない。亮司の厳しい条件、女性本来の優しさに性別女性であること、でも見た目女性らしさは求められない辛さ。俺達が大人に近づく程、強烈なフラグメントが待っている。大人の世界は、どうしても男と女が一緒に築いていく社会だからだ。  そして香津美さんが優しく悟す通り、虐待されても、産みの母親石黒夏美を、亮司が受け入れれば、その女性嫌悪の呪いから解放される筈なのだ。大人の悟しとしては立派だ。ただ、俺達はまだ心と身体が一致していない、どうしようもない子供なんだ。
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