as Friend, as Best Friend.

1/1
前へ
/3ページ
次へ

as Friend, as Best Friend.

 七夕前の土曜日。梅雨の時期だが、ここのところ照り返しが多いから、このまま梅雨明けかと思っていた。  俺の目の前には、赤い傘に、やたら筋肉質の女性、実はこんなに着痩せしていたかの全裸の女子が、白い防水スニーカーで長らく歩いている。彼此2時間経つのに休みも無しかよ。  ◇  朝8時、俺の家に、加古美輪子がデートしようと来た。その割には、まま見せる交戦的な目付きで、何かしでかすかだ。母牧子が、デートと聞いて一瞬はしゃぐが、戸惑う。そして美輪子の瞳を覗き込むと、四十万に無理はダメよと諭す。はい。何がダメか察しすぎるが、そう言う関係じゃないし、とはその場で言える雰囲気では無かった。  俺達はそれぞれの傘を刺す。雨の日のデートだったら、相合傘だろう、なんて軽口すら言える隙すらない。美輪子は着いてきてのみで、美輪子がただ先頭を歩く。これは何のトレーニング何だよ、これも言えやしない。  俺達は海岸沿いをやや歩き続け、美輪子が立ち止まる。海より、小さな波飛沫が飛んでく来る中、美輪子は、俺にバックパックと赤い傘を預け、ノーブラの白のタンクトップ、ノーショーツのショートパンツを、手早く脱ぐと俺に手渡す。そして突き刺す程に。 「もう、何もかも終わりにしないといけないの」 「俺は美輪子を信じる。きっと、来ると思う」  俺は無謀か計画に頷く。  三号溜池絞殺事件から3ヶ月。未だ捕まらない犯人が、認識として暴行が失敗して殺人に至った以上、推定男性だったら、性欲を満たそうとまた暴行を起こす可能性はある。今度も死ぬかもしれない。でも美輪子だったら、きっと、何かの尻尾を掴む可能性はある。  ◇  小栗地蔵停留所迄、もう少し。  この辺りは、ごく稀に部外者が来てサーフィンをしているが、波が平たいのでスマホのサーフィン予報で余程の高さが無いと閑散としている。  俺と美輪子の距離は100m。この閑散故に、この距離なら、全裸無防備の美輪子を襲う可能性は十分にある。  不意に、日差しが戻って来て天気雨、そしてスッーと雨が上がった。前方の美輪子が振り返る。赤い傘を折り畳んで、もう帰ろうかに朗らかに視線を投げかける。やれやれ、と思った瞬間に、何か黒い影が美輪子を弾き飛ばし消えた。  まさか、そんな。  俺は、傘を投げ捨て。一目散に走った。美輪子だけは嫌だ、亮司の為、いや俺が、陵辱を許さない。  小栗地蔵前海岸で、全裸の美輪子の腹部に跨る、下半身を剥き出しにした男子がいる。俺は、こいつ、の拳を固めた筈だが、全身の力が抜け落ちた。美輪子の上に跨っているのは、無口なハンサムの評判そのままの中馬亮司だった。何故。俺は直立不動で固まる。  亮司は、興奮でハアの声にもならない音量で、美輪子の着痩せから解放された若い左乳房をこれでもかと揉みほぐす。美輪子はイヤと言いながら抵抗するも為す術が無い。  やめろ亮司、を絞り出したが、亮司の興奮度は上がり、とうとう美輪子の両乳房を揉み尽くす。美輪子がイヤと声を絞り上げて、亮司の右頬を思いっきり張った時、亮司がしおらしい声を出し、痙攣したかと思えば、アッと見る間に全身の力が抜けた。  その隙を見逃さず、美輪子はマウント仕返し、亮司と攻守逆転し腕挫十字固で、亮司を締め上げる。亮司のウウの声は聞こえたと思えば、今度は静かに海岸の砂浜に沈んだ。  俺は、漸く我に戻り、美輪子に駆け寄る。傍には絞められて気絶した亮司。美輪子は亮司の大量の精液を上半身にたっぷり浴びるも、然もありなんの顔をする。 「四十万、バックパックに手錠入ってるから、後ろ手に絞めといて」 「美輪子、大丈夫か、」 「四十万は、気にしないで」  俺は切ない思いで、亮司を後ろ手に手錠する。美輪子はやや涙声で、その間にタオルで亮司の精液を何度も拭い、タンクトップとショートパンツを着込む。  そして、美輪子は躊躇せずスマホで警察を呼び出す。急いで来て下さい。 「美輪子、美輪子さ、いつから気づいていたんだ」 「優しくないフェロモン、苦い暴力の香り、女子が一番苦手なタイプよ」  でも亮司は、幼馴染で、友達だった。しかも、亮司は美輪子を好きだった。今日ここを経て、それはつい口から出なかった、この先もだ。俺は遥か遠くの亮司を見失った。  ◇  亮司は聴取から、そのまま連行された。  その後の俺たちは、交番で拿捕される。美輪子はずっとワーワー泣きながら、ついこの前の人気動画配信者の真似をしてしまいました。絶対言わないで下さい、ワーワー、お嫁に行けなくなっちゃう。ワーワーと、俺にとっては分かりやすい泣き真似をする。  しょうがないなで、俺の母親立浪牧子を保護引き取りに呼び出して下さいにした。母牧子だったら捲し立てて、どうにか駐在さんを丸め込めるだろう。  美輪子が、全裸破廉恥で、清廉な両親によって転校させられたら、きっと何処かで噂になって、いて堪れなくなる。穏便にしかない。  いざ呼ぶも、母牧子が美輪子を往復ビンタする、そして共同責任と俺も往復ビンタ×3される。まあ七分の加減なので、俺もごめんなさいごめんなさい、美輪子を守れなくてごめんなさいと床に膝をつく。ここは事実だし、俺も演技出来るんだなと、スキルが勝手に上がった。  果たして、三者全力で三文芝居をしたので、やっと交番から解放された。  ◇  この亮司の逮捕で、三号溜池絞殺事件は一気に解決に向かった。逮捕の経緯は、囮捜査とも言える未成年美輪子の全裸散策からの婦女暴行を発したので、巴市警察署の捜査本部は仔細を述べず、市民協力による未成年Aの逮捕と、何かまんじりとしない発言で急ぎ終えた。  情報番組は、迷宮入りかの三号溜池絞殺事件がまさかの未成年逮捕かで3日は賑やかだった。それも続報がない事から、翌週からは、今年は例年に無い酷暑で、毎年それだろうと思いながら、ついにメディアから中馬亮司の姓に名前、頭文字のローマ字すら出なかった。  そして夏休みに入ると、亮司の養父中馬亮司は、病気療養を理由に町長職を辞任した。  俺は美輪子の心のケアと思って、3つのケアプランを捻り出したが、美輪子は長期期間となると、いつもの空手合宿に何事もなく行ったので、美輪子らしいとは思った。  ◇  三号溜池絞殺事件が薄れ行く頃、秋になると未成年Aの供述が、紙面に浮かび上がる。  三号溜池絞殺事件は、被害者が全裸で歩く事から、未成年を悪戯に刺激し欲情させて、暴行に発展。ただ、女性の扱いを知らない事から、強姦に至らず成り行きで絞殺、酷く動揺して遺体を三号溜池に浮かべた。  ただここには踏まえる事があり、未成年Aは幼い頃から、生母から虐待されており、女性に酷いトラウマがあると。ただそれも身体は思春期で有り、その体躯から性衝動が溢れコントロール出来なかったと。  そして次ぐ自白の中で、小学校高学年の時に、自宅に火をつけ、生母を見殺しにしたと。ただここは、当時の失火記録を見ると、母親の煙草の不始末であり、因果性は薄い。  ただ当時の、未成年Aの心身のケアを怠った為に、今日の事件に至ったのは痛恨の極みだと、亮司の専任弁護士は告白する。ここで、未成年Aへの同情へと、世論が大きく流れた。  でも、亮司のいつも衝動性を伺うと、亮司は生母を殺したには違いないと、俺は密かに確信する。  亮司はもう、心から女性は愛せない筈だ。その反面、身体は女性を求めてしまう。でも不能だ。亮司は二人の女性を殺めた以上、女性を一生抱き締める事が出来ないだろう。  でも美輪子なら、我慢して側にいてくれたかもしれない。それも、亮司が美輪子を暴行未遂した以上、もう亮司は男性として生きる可能性は絶たれた。  孤独で可哀想な亮司。これからどうやって人生を過ごすんだ。亮司を思うと、ただ心が漣を起こす。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加