The Providence.

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The Providence.

 朝7時きっかりに起こされた。えっつ、何処だは、控え室の畳の間。そう知ってる、美輪子の家業の加古水産第三作業場。しかも全裸、そのままの姿だった。 「夢、じゃないのかよ」 「そうよ。残念だけど、夢じゃないのよ。スキンは全部使ったし、ほら」結ばれたスキン4つがタプンタプン揺れてる「まあ信じないわよね。羅々に悪いとかの背徳感。そこは羅々も大人だから、童貞卒業おめでとう、エヘンでしょうよ。そうか、がむしゃらだったから、経緯覚えてないよね。大人になった四十万さんにお話ししましょうか。でも残念、ガルニディア教会のクリスマスのお手伝いしないと。さあ、着替えて行きましょう。そうよ、四十万も手伝うのよ」  朝の日差しの中で、加古美輪子の乳房をまじまじと見つめた。それは淡いトーンで、筋肉で盛り上がり瑞々しかった。そしてSEXの記憶がやや戻ってきたが、照れて乳房は頬張ってはいなかった。童貞だから当然だろう。  美輪子は左腕で両乳房を隠し、後ろを向きブラを付ける。そして、俺にホックを止めるように命令する。俺は分からないと言いながら、悪戦苦闘とすると装着完了。俺は何故か、いやどうしても、美輪子の広い背中に縋った。何故なのか分からない。 「四十万、愛してるわ。この先、苦しい事あるだろうけど、私がなんとかするから」 「美輪子、そこは一緒にだろう」  美輪子がグスンとすると、俺の回した両手を両手で包み込む。そして美輪子はガバと立ち上がり、クリスマスクリスマスとはしゃぎ、互いに背中合わせになっては、アンダーを履いて急いで着替えた。作業場は休日だから来ないものの、見られたら恥ずかしいで、勢いよく飛び出した。目撃者は0、ほっつと。  ◇  俺と美輪子は、互いの実家に電話をし、家に帰らず教会の手伝いをする事を告げた。俺は、素直に美輪子と一緒にいると告げたが、母牧子に敢えて子供扱いされて、朝食は食べなさいよと諭された。  俺達は西条羅々宅で貰った、沢山商品の入ったバックパックを背負い、山の頂上のガルニディア教会に辿り着いた。既に有志の方々が準備に入っており、いらっしゃいだった。  その中には、加古美輪子の両親もいた。美輪子の話では、生命を扱う職業は押し並べて、寄進の多い信者が多いと言う。加古家は、生粋なカトリック教徒だった。  ああでも、美輪子と一晩共にして、美輪子の両親と居た堪れないなと思ったら、朝食一緒にしようと、同じテーブルに招かれた。  ミネストローネとパンを食べながら、ざっくばらんに美輪子とはの朗らかさが語られる。反抗期がやっと終わった。将来空手の強化選手かも。実家は、姉碧子が東京から帰って来たので継ぐかな。大学進学は名古屋だろうけど、四十万君もそうだよね。  ここは全然違う。亮司の逮捕以来、俺はしがらみを一旦切ろうと東京の大学で経済学部に入ろうと思ってた。先生からは、三番手の医大に行けると言われたが、立波家にそんなゆとりは無い。  俺は逡巡しながらも、名古屋進学に相槌を打った。週末七五三町に帰って来れますよねと、咄嗟に繋ぐも、俺の心だって実は脆い。思った以上に、名古屋進学がベストかもしれない。  そして、加古文春さんと加古土岐子さんが、顔を整えて。大切な事を話しておきましょうと。俺達幼馴染4人の両親が、とある日、亮司の中馬家の大邸宅で、経緯と謝罪の会談をしたらしい。  当時の然るべき記録が残っていても、亮司が生母石黒夏美を焼殺したのは間違いないだろうと。夏美は生活が乱れだらしなかったので、亮司が憎さ溢れて、まだ焼ける煙草の上に、そのまま雑誌に置いて、結果焼殺したのは、誰が責められるか。中馬家は有体に語る。  また、絞殺した一路瑞稀さんの家族には、5000万円の慰謝料を渡した。そして、美輪子への婦女暴行の慰謝料として1000万円の現金を置かれた。美輪子の両親は、そんな堅苦しい事は止めてくれだった。しかし、七五三町を支える加古水産は、原料の魚が陸揚げ減少して来た経緯も有り、有り難く受け取ったらしい。酷い親でしょう。俺は違うと大きく首を振った。  そして、これからの亮司の話になる。美輪子の婦女暴行は示談。生母殺害は検証終了で早く除外されたので不起訴。一路瑞稀さんに関しては、被疑者が精神不安定につき、暴行の過程で互いに望まない形になったので、悪くて懲役9年以上13年以下の不定期刑。来月の裁判の行方でとして、過失で懲役5年辺りかになる。  もし、亮司出所しても、東京の学校に通わせて、もう皆さんと会う事は無いとは断言したらしい。  いや、そうじゃ無いだろう。俺は堪らず激昂した。 「亮司の帰る場所をまた奪う気ですか。あいつは、悪いことしたけど、その純粋さと正義は揺るぎないです。そんなの、俺達より大人が分かってますよね」 「四十万君。人間生きてれば、どうしようもなく、ついていない人間に出会ってしまう。社長業をしていれば、尚更ですよ。君達の絆は、十分理解し分かってはいます。そう、同情し続ける事も、それは有りの人生ですが。亮司君の性格から、また問題を起こしましょう。私が悪者になって構わないです。亮司君とのこの先、最良の方法は、ついていない人間に関わらない事です。君達は、曇りなき大人にならなくてはならないのです」 「どうすれば良いのですか。美輪子、俺分からないよ」 「四十万、亮司は故郷の無い宿命だったのよ。それを受け入れましょう」  冷た過ぎる。美輪子だけはと思ってた。俺には、もう有無は言う余地は無い。何より、亮司が帰って来た未来を想像するが、どうしたら良いかが浮かばない。全てを無かった事にして生きる。そんな事できはしない。一路瑞稀さんは、大らかで優しく、あんな美人を忘れる事はこの先も出来ないだろう。雨の中での清らかな笑顔。あの先に、何もかも吹っ切れて、あるべき未来が待っていた筈だ。  俺はポツリと、主はきっと、瑞稀さんを間違いなく救っていた。皆が涙しながら頷いてくれた。  ◇  昼に近づくと、ガルニディア教会のクリスマスの飾りつけと炊き出しの準備が整った。シーフードクリームシチューの評判は上々で、俺のこっそり、ついお代わりが、何とか許された。  そして午後イチのミサが終わると、美輪子が長身でハンサムの谷崎真嗣司祭に歩よった。告解室お願いできますか。全てを察している、谷崎司祭は遅いですよと、笑顔でフランクに手招く。  そして格子窓越しに、俺達は1.5人しか入れない信徒室に、仲良くぎゅう詰めに座る。油断すると頬と頬が重なる。美輪子、わざとだろうも、美輪子に知らんぷりをされる。そもそも、信徒室は見た目一人の応対が基本でしょう。谷崎司祭はクリスマスは立て込みますから、これは有りでしょうと朗らかに答える。  美輪子の告解は、俺達が失敗した切実なものだった。それは13歳の夏に由来する。 「思春期で、成長期、私達は大人に近づき、生まれ変わります。ファニーな顔がハンサムになったり、小作り顔が丸顔になったり。もう別人ですよね。そうなると、思春期の萌芽で、恋って、愛ってを探し求めました。そう、羅々はハンサムになった亮司を好きになります。ただ私は亮司とは小学生の頃からつるんでおり、亮司の荒ぶりさを知っています。ここで私は、羅々に止めなよと言うべきでしたが、それは出来ませんでした。私は、中性で不思議な魅力を持ち始めた、四十万を好きになり始めて。羅々が四十万から離れて行くのは好都合でした。今となっては、私は大きな失敗をしてしまったのです」 「美輪子さん。ですが、あなたはその時点で、亮司君が罪を犯す、犯したと分かってはいません。悔いはしても、美輪子さんも背負う必要ありません。何より、思っている事を、全て話して、理解される事は、現時点では不可能なのです。美輪子さん、若いあなたは、そこ迄踏み込める、溢れる程の活力を持ち合わせていない事にお気づき下さい」 「いいえ、私達はそれでも、若さ故に頑張りました。亮司の突然の精通は有り、亮司は泣いていました。勃たないのに汚れる。そうして、私達はインターネットでSEXを知り、これなら亮司も大人になれるのでは無いかと、SEXに踏み込み、思春期の最中で、処女を喪失しました。私の男性経験は4人、昨日の四十万を入れて5人になります。羅々の男性経験は2人。SEXで愛情も知り得ると思いましたが、それは行為の虚しさが深まるだけでした。そう、これでは亮司を到底、男性にする事を出来ないと深く悟り、私も羅々も、亮司を抱き締める事は叶いませんでした。谷崎司祭、SEXと愛情はセットで、世界を救える筈なのですよね」 「現代は誤解が溢れていますね。純潔こそが、人々を清廉にして行きます。私はつい強い言葉になっていますが、思索を訂正出来るのも信徒の心掛け次第です。そして進むべき道の過ちに気づいたのは、祝福すべき事なのです。主に感謝しましょう。そして美輪子自身も、まず自らを愛しましょう。今はついでで構いませんが、四十万さんも愛しましょう。愛の深さを知るのは、大人になって社会に出た時に、悟り得るものでしょう」 「俺は、ついで、ですか」 「そうですよ四十万さん。美輪子さんを愛したなら、全てを愛せるは浅はかな考えです。あなたはまだ未成年なのですから、身分相応のお付き合いに徹するべきでしょう」 「そうなのですね。谷崎司祭ありがとうございます。私は距離感を正しく測って、四十万と生きて行きます。ただ、羅々は、見た目は明るいのですが、内面では亮司の事件で張り裂けそうです。私は、どうアドバイスしたら良いのですか」 「積もる懺悔があるのなら、すべきでしょう。そして重荷を降ろす事で、徐々に忘れて行けば良いのです。如何ですか、亮司君が逮捕されてから4ヶ月。亮司君の言葉、その姿、徐々に薄れていませんか。人間の身体構造は図らずとも、心と連動しているのです。羅々さんとは、夜迄にお越しでしょうから、それとなく告白して貰いましょう」 「初めてが、四十万だったら、私はより正しく生きられたのでしょう」 「それも如何でしょう。愛とは巡り合わせです。今の美輪子さんは、中性的な四十万さんを、ああ私がいないとになっていますが、四十万さんも同じ様に、美輪子に付き添わないとと成長しているのですよ。ここは照れることなく、そうだね四十万、位の立ち位置で良いと思います」 「だってさ、美輪子」  俺は、密着を良い事に、美輪子と頬を合わせ頬擦りをした。ドーン、俺の身体、横そのまに右側に倒れながら、信徒室から飛び出て、ドワンと床に転がった。強え、美輪子。たった今のそれで、信徒室でいちゃつくのは、まあ俺も幼い。  ◇  結局、夕方の讃美歌迄、俺は美輪子に付き合い接遇係の腕章をつけた。  そして羅々が、実家のコンビニでクリスマスオードブルを渡し終え、ガルニディア教会に訪れる。ここで、俺の全身をしつこく嗅ぎながら、おお、おお、おおおと感嘆詞が溢れる。うんまあ、昨日から風呂にもシャワーに入っていない。参ったなあ。きっと美輪子のいつものスポーツローションの移り香が漂っているに違いない。  そして、美輪子と羅々が額をぴったり合わせ、ヒソヒソ話をする。そして互いに、人差し指、中指、薬指、小指を折る。キャーの小さい連発は、多いのか少ないのか、さっぱり分からない密談だ。勿論、俺はその小さ過ぎる輪に入るつもりは毛頭ない。  それから20時には、信徒の手順が良いのか、物は既に整頓されており、ごみを収集するだけで、見事に終わった。  ◇  帰路は、加古家のSRVに一緒に乗って、送って貰える事になった。  俺達は、後ろの席で、シートに深く沈んでいる。美輪子は、疲れ切ったのか、俺に寄りかかりうたた寝をする。ただ、暗くて背後の後部席を良い事に、俺の手を繋いで下さる。そう美輪子は目を瞑っても起きており、都度ギュギュとして来る。谷崎司祭に、若者らしい距離感をと言われた今日でこれだ。また、懺悔すれば良いって事じゃないだろう。  やれやれと思いながら、俺も寄り掛かった美輪子の頭に頭を寄せ眠った振りをした。全く、あと10分で俺の家に着くのに、何をいちゃつくやら。  美輪子、そして羅々、ゆっくり亮司の事は忘れよう。俺も努力する。来年の、高校3年のクリスマスシーズンに向けて、普通に青春しよう。この3人なら、きっと再出発できる。不意に力んでしまうと、美輪子の最大握力で、ガッ、甲が砕けるー。美輪子が、ハハ、と爆笑しながら、ずっと握りぱなしだ。  やっぱり、美輪子と付き合うのは全部考え直す。登校と下校で、こうギュッと握られたら、俺の繊細な身体に神経がズタズタだ。美輪子、離せよ。やだ。でしょうね、の悠長な声が出ないくらい、美輪子にキツく握手されている。美輪子、ふざけるのは、どうか止めて下さい。
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