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03.縁色反応
日没となり、再び墓地に戻ると、村中の人が集まっていた。
ミチのお父さんは、ここから離れた打上場に行ったので、ミチは僕たちと見ることになった。
父の話だと、祖父の花火が打ち上がるのは最後だ。
それまでは普通の打上花火とよその花火葬を楽しむことになる。
葬儀を楽しむなんておかしい話だが、ここでは普通のことだし、賑やかに天に送り出す考えらしい。
娯楽が少ないのか、ミチは幼い子供のように、口を開けて楽しんでいた。
僕も楽しかったが、花火なんて興味のない振りをしていた。
花火なんて所詮、炎色反応だ。
奇跡も浪漫もないただの化学現象だ。
そう思っていたのは、前座の打上花火までだった。
「これより、故人の花火を打ち上げます。昨年9月に亡くなった佐竹栄悦さんを偲びます」
場内アナウンスが防災スピーカーから流れてくる。
打ち上がったのは、見たこともない炎色で、あり得ない軌道を描いている。
黄色が渦を巻き、青色に変わり、四方に広がっていくのだ。
美しくも不可思議な花火を見て、「やっぱり佐竹さんは優しい人だった」など、周囲から故人を偲ぶ声が聞こえてくる。
ミチに聞くと、花火には生前の行いや想いが反映されるという。
「縁色反応よ」と達筆な文字で僕の赤本に書いてくれた。
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