03.縁色反応

1/2

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

03.縁色反応

日没となり、再び墓地に戻ると、村中の人が集まっていた。 ミチのお父さんは、ここから離れた打上場に行ったので、ミチは僕たちと見ることになった。 父の話だと、祖父の花火が打ち上がるのは最後だ。 それまでは普通の打上花火とよその花火葬を楽しむことになる。 葬儀を楽しむなんておかしい話だが、ここでは普通のことだし、賑やかに天に送り出す考えらしい。 娯楽が少ないのか、ミチは幼い子供のように、口を開けて楽しんでいた。 僕も楽しかったが、花火なんて興味のない振りをしていた。 花火なんて所詮、炎色反応だ。 奇跡も浪漫もないただの化学現象だ。 そう思っていたのは、前座の打上花火までだった。 「これより、故人の花火を打ち上げます。昨年9月に亡くなった佐竹栄悦さんを偲びます」 場内アナウンスが防災スピーカーから流れてくる。 打ち上がったのは、見たこともない炎色で、あり得ない軌道を描いている。 黄色が渦を巻き、青色に変わり、四方に広がっていくのだ。 美しくも不可思議な花火を見て、「やっぱり佐竹さんは優しい人だった」など、周囲から故人を偲ぶ声が聞こえてくる。 ミチに聞くと、花火には生前の行いや想いが反映されるという。 「縁色反応よ」と達筆な文字で僕の赤本に書いてくれた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加