24人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
羽賀さんはしばらく沈黙した後、静かに言葉を続けた。
「正樹は若い頃、この村に恋人がいたんだ」
祖父が故郷をすてたのは、高校卒業間際だった。
当時、閉鎖的なムラ社会では集落を出ることは異端視されていた。
恋人の幼馴染みと駆け落ちを目論んでいたが、未遂に終わったという。
相手の女性は祖父と合流する前に石畳で足を滑らせ、頭部を強打し亡くなったのだ。
だが、祖父はその事実すら知らずに、失意のまま一人村を出て行った。
きっと、彼女は自分ではなく、村に残ることを選んだのだ、と誤解したまま。
「羽賀さんはどうして、祖父の花火葬を行おうとしたんですか?
そんな哀しい過去を知り、祖父の後悔を知りながら。
だったら、そっとしておけば良かったじゃないですか!」
「君の反論は正しいよ。俺は黒い花火になることを予想していた」
「だったら、なぜ?」
「供養したかったんだよ。正樹の恋人は俺の妹だったんだ」
「!」
「正樹の花火葬を、妹に手向けたかった」
羽賀さんは、その場に崩れ落ち、涙を流した。
最初のコメントを投稿しよう!