04.黒

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羽賀さんはしばらく沈黙した後、静かに言葉を続けた。 「正樹は若い頃、この村に恋人がいたんだ」 祖父が故郷をすてたのは、高校卒業間際だった。 当時、閉鎖的なムラ社会では集落を出ることは異端視されていた。 恋人の幼馴染みと駆け落ちを目論んでいたが、未遂に終わったという。 相手の女性は祖父と合流する前に石畳で足を滑らせ、頭部を強打し亡くなったのだ。 だが、祖父はその事実すら知らずに、失意のまま一人村を出て行った。 きっと、彼女は自分ではなく、村に残ることを選んだのだ、と誤解したまま。 「羽賀さんはどうして、祖父の花火葬を行おうとしたんですか?  そんな哀しい過去を知り、祖父の後悔を知りながら。  だったら、そっとしておけば良かったじゃないですか!」 「君の反論は正しいよ。俺は黒い花火になることを予想していた」 「だったら、なぜ?」 「供養したかったんだよ。正樹の恋人は俺の妹だったんだ」 「!」 「正樹の花火葬を、妹に手向けたかった」 羽賀さんは、その場に崩れ落ち、涙を流した。
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