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「ほら……。あ!」
花火は上空で漆黒から灰色に、灰色から茶色に、茶色から緑色に、緑色から黄色に、そして大輪の赤が咲き、夜空で虹色の龍が旋回した。
火薬に混じり、かすかに懐かしい匂いがした。
忘れかけていた匂いが。
次々に打ち上げられる祖父の花火。
その色とりどりの炎色反応は、一度は墓地から出ていった村人たちの足を止めた。
「綺麗。こんな縁色反応みたことないわ」
「黒田さんの悲しい想いも、解放された魂も、すべて降り注いでいる」
至る処から、感動の声が上がった。
祖父の花火は、もう怨色反応ではなくなったのだ。
「見てみて」
ミチが僕の手を引き、彼方を指さす。
あの銀杏の葉が、祖父の花火に応えるように、光りながら揺れている。
あぁ、銀杏の根元にあった石仏は、きっと祖父の恋人だったのだ。
2人はようやく、一緒になれる。
空の上でも、銀杏のもとでも、好きな方を選んで欲しい。
そう願った。
僕と父なら大丈夫だ。
今までずっと見守ってもらったから。
今夜の幻想的な花火葬を、僕は一生忘れないだろう。
気づくと、ミチの姿がなかった。
誰に聞いてもそんな少女は知らないと言われた――。
(花火葬 了)
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