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01.北へ
「祖父ちゃんの故郷に行く」
そう言われて僕は父が運転する車に乗り込んだ。
大学受験を控えた高校最後の夏休み、後部座席で赤本を読みながら、北へ向かった。
助手席には祖父の骨壺が鎮座している。
祖父の故郷に行くのは初めてだ。
昔聞いた話では、東北の雪深い場所にあるという。
三年に一度しか雪が降らない都会で育った僕は、幼い頃、祖父の故郷に行きたいとせがんだものだ。
そんな時、祖父はとても辛そうな顔をしていた。
今になって、そう思う。
でも、幼かった僕は、残酷なほど無邪気だった。
「父ちゃんも行ったことないんだから」
そんなときは、決まって父はそう言って、僕をなだめた。
同級生が、カブトムシを獲りに行ったとか、スノーボードをしたとか、
そんな田舎での土産話が自慢話に聞こえ、とても惨めな想いをしたことを覚えている。
僕が泣くと、父は黙って両手を広げる。
それが合図のように、僕は父の胸に勢いよく飛び込んだものだ。
最後のダイブから何年経つだろうか?
もう、二年前から僕は父の身長も超え、最低限の会話しかなくなった。
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