01.北へ

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母親がいないとか、父親がいないとか、そんなのは今はよくある話だ。 父と祖父との三人暮らしは、そう多くなかったけど。 祖父が死んでも、マンションは広く感じなかった。 お年寄りには珍しく、ミニマリストだったからかも知れない。 処分する私物なんてほとんどなかった。 想い出の品もない人生は、可哀想なのだろうか? それとも、翼が生えるほど軽やかだったのだろうか? 四十九日が過ぎても、祖父の遺骨は自宅にあった。 祖父の訃報をどう知ったのか分からないが、手紙が届いたのだ。 差出人は、羽賀さんという祖父の同級生だ。 僕たちは、同封された案内図を頼りに北へ向かった。 今年の夏も猛暑らしい。 上着を脱いでいても、喪服代わりの学生服は暑い。 UVカットガラス越しに、陽射しが強く照りつける。 ジリジリ鳴るのは、太陽だけではない。 気がつくと、都会では聞かない、虫の鳴き声が響いていた。
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