01.北へ

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「じいちゃんが故郷で最後に見たのは、どんな風景だったんだろうね」 見慣れぬ景色を眺めながら、僕は呟いた。 父は少し眉をひそめながらも、優しく答えた。 「銀杏(いちょう)じゃないかな」 「銀杏?」 「老いた銀杏の木が一本、道を見守っていたと聞いたことがあるからな」 桜や松じゃなくて、銀杏。 僕はその景色を想像しようとした。 祖父が子供の頃に遊んだであろう川辺。 冬になると全てを覆う雪。 集落を見守り続ける古い銀杏の木。 そうした自然に囲まれて、祖父はどんな夢を見ていたのだろうか。 車はさらに北上し、窓の外を流れる景色は、緑豊かな田畑が広がり、時折、古びた神社や質素な家々が見えた。 「じいちゃんのこと、あんまり知らないよね」 僕はもう一度口を開いた。 自分の中の何かが答えを求めるように。 「ああ、そうだな。今日の花火葬を通じて、何か、知らない話が聞けるんじゃないか?」 父の声はいつもより穏やかで、どこか遠い日々に想いを馳せているように響いた。 花火葬――。 羽賀さんの手紙に書かれていた言葉だ。 教えられた集合場所は、祖父の本家でも、集会場でもなく、墓地だった。
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