02.ミチ

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02.ミチ

祖父が亡くなったのは五月の終わりだ。 祖父は若い頃、故郷をすてた。と父から聞いた。 だから、僕はおろか、父すらもここに来るのは初めてだ。 なぜ、来たのかというと、この村の出身者は初盆を迎えるとき、ある儀式を受けないといけないからだ。 墓地には地元の人が集まっていた。 祖父たちの花火葬を行うために。 彼らの表情は、厳かでありながらもどこか温かみを帯びており、遠くからでもその独特な雰囲気が感じ取れた。 それはそれで、改めて僕に居心地の悪さを感じさせるものだった。 お前たちは余所者だ、と。 圧倒的アウェー感。 「黒田さん?」 「はい。あ、もしかして」 「羽賀です」 声をかけてきた男性は祖父の同級生だ。 祖父が村を出たことで、ここでの黒田の家系は途絶えており、羽賀さん以外に声を掛けてくる人はいなかった。 短い自己紹介で、彼が花火師だということも分かった。 花火葬は、火薬に遺灰を混ぜて打ち上げる、江戸時代からこの村に続く奇妙な風習だ。 かつて、ここは鉱山から豊富な鉱石が採れ、火薬の製造が盛んだったのだ。 と、道中で父に聞いた。 「お悔やみ申し上げます」 「ご丁寧にお手紙をいただき、ありがとうございました」 「とんでもない。……生きているうちに正樹に会いたかった」 「花火葬は、初めての経験なので、教えていただいて助かりました」 「珍しいですよね。こちらはお孫さんですよね? 正樹に似ていたからすぐ分かりました」 「あ、はい」 羽賀さんの後ろから、僕みたいに学生服姿の少女が顔を出した。
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