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「樹齢はね、500年? ん、550年だっけ? まぁ、それ位」
銀杏の木は、戦前、国の天然記念物に指定されたが、昭和後期の台風被害で指定を解除された。
その後、国ではなく村指定の天然記念物になったそうだ。
樹高は40mを超え、枝の範囲は東西に31m、根は地表から飛び出し、10m近いという。
幹の内部には空洞があるが、朽ちかけという印象はなく、静かな力強さを感じる。
こうした、ご神木は、神社の中に鎮座していそうだが、ここは羽賀さんの畑の中にある。
雌雄同株といって、雄株でありながら一部の枝が雌花を咲かせるという性質を持ち、学術的にも貴重な木だという。
「じいちゃんが最後に見たのは、この木だったのかな」
「どうして?」
「じいちゃんは故郷をすてて都会に出てきたんだって」
「知ってる。今は多いけど、昔は初めてだったってさ」
「それでも十何年も過ごしてきたんだ、きっと最後は振り返って……この銀杏の木を見たのかな。って」
「ロマンチストかっ!」
「いや、酒とタバコばかりの怖いじいちゃんだったよ」
「もっと、都会のこと教えてよ」
僕たちは、銀杏のまわりを何度も周りながら、とりとめのない話をした。
僕は、都会暮らしの嫌な面――ふと感じる孤独――や多少ギクシャクした親子関係の話をした。
ミチは都会の華やかさに目を輝かせ、親子関係はうちも一緒よと頷いた。
「大樹君は高校を卒業したらどうするの?」
「受かれば、大学生になる」
「そっかぁ、地元?」
「うーん、横浜や都内の大学も受けるけど、本当は九州に行きたい」
「九州?」
「うん。理系なんだけど、学びたい学科があるんだ」
「素敵じゃない」
「でも、父さんは家から通って欲しいみたいで」
「一緒ね。うちは、家業を継げって話だけど」
「花火師?」
「そう。ここでは絶対絶やせないからって」
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