02.ミチ

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他愛のない会話だったけど、初対面だからこそ、言える内容もある。 普段は感情に蓋をしているが、声を上げたいこともある。 多分、彼女もそうなんだろう。 時間はすぐに過ぎた。 祖父の故郷は幽玄の(とばり)を纏い始めていた。 空は深紫に染まり、風は過ぎ去りし日々の囁きを運んでいた。 僕は銀杏の前で、ミチと並んで立っている。 彼女の瞳は遠い夢を映しているようで、時折見せる笑顔がとても切なかった。 木の根元には小さな石仏があった。 花が手向けられ、供物もある。 ミチは石仏の頭を優しく撫でていた。 ミチには1歳年上の兄が居るそうだ。 でも、高校を卒業したら県外の大学に行って、家業は継ぎたくないと揉めたらしい。 だから、会場というか墓場にも居ないんだろう。 ってことは、僕と同い年だ。 「時代錯誤よね。お兄ちゃんが家業を継がないなら、お前が婿をとれって言うの」 「それは大変だね」 ミチに彼氏はいるんだろうか? それを聞くのは、色んな意味で終わりな気がして、僕は聞かなかった。 ようやく風が涼しくなってきた。 日が暮れ始め、カラスが鳴いている。 「見てみて」 「え? 何それ?」 「縄文土器だよ。この辺の畑ではね、探せば結構出てくるんだよ」 今日は晴天だけど、昨日まで雨が続いたらしい。 そんな雨上がりの後は、土器が表に現れるらしい。 樹齢500年以上の銀杏と、何千年も前の土器。 70代の祖父と、50代の父。そして10代の僕たち。 時代は変わってるのか、変わらないのか、分からない。 だけど、いつの時代も生きづらい気がする。 ミチは土器を畑に戻しながら「どうせここから出られないし」と残念そうに呟いた。 田舎が嫌なら出れば良いのに。祖父のように。 そう思ったが、何となく口に出すべきではない気がして、呑み込んだ。
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