5

1/1
前へ
/8ページ
次へ

5

「……しょうがないな」  美波はいつの間にかガラステーブルに置かれていた小箱を開け、中に入っていた小袋を大洋に渡しました。  ――避妊具です。  床に座ったまま、大洋は私たちに背を向け、それを着け始めました。後ろ向きでも、ぎこちなさが伝わってきます。  いよいよ、かあ。  三人とセックスする、覚悟はできていました。だから特に慌てるでもなく、私は大洋をぼんやり眺めていたのです。 「いてっ。なにこれ、不良品?」  大洋のがっちりした肩が、しきりに上下に揺れています。どうやらコンドームの装着に難儀しているらしく、不安になります。ちゃんと付けてくれないと困る……。 「おい、早くしろよな。これだからドーテーは」 「童貞をバカにすんな!」  潮にからかわれて、大洋はいきり立ちます。  そうか、女の子の裸を直には見たことないって言ってたし、つまり大洋はそういう経験がないんだ……。 「まあ、でも、女の子は、慣れてる男のほうがいいんじゃないの? 童貞よりはさ」 「……………………」  美波がクイッとメガネを上げつつ追い打ちをかけると、大洋は顔だけでこちらを振り向きました。太い眉を下げた顔は、罠にかかったタヌキのように不安げです。 「そ、そんなことないよ。したことなくたって、別に……」  大洋を励ますために、私は力説します。 「大洋はピュアなんだよ! フラフラ遊びまくってるチャラい男子より、ずっといいと思うな!」  私のこの主張は、妙に手馴れている潮と美波に対する当てつけでした。  狙いどおり、潮と美波は苦虫を噛み潰したような顔をしています。 「みさき……! ありがとう! そうだよな! オレからすれば、好きな子がいるのに、ほかの女とヤッちゃう奴らのほうが信じられないね!」  体を反転させ、もとどおり私たちと相対した大洋の、その表情は明るく輝いていました。 「ふん……」  今まで下に見ていた友人から思わぬ反撃を食らい、潮と美波は面白くなさそうに口をへの字に曲げています。  そして、私は……。私の目は、ある一点に釘づけになっていました。  向かい合わせに座る、大洋の股間にそそり立っているもの。ブルーのゴムの膜に覆われた、それ。  避妊具をかぶせるのに苦労していた理由が分かりました。大きさが合っていなかったのです。  ――太い。長い。  直径七、八センチ。長さは二十センチほどでしょうか。  私の男性経験は今まで元彼の海人だけで、だから男性の持ちものは、当然ひとりぶんしか見たことがありません。そして先ほど握った潮と美波のペニスは、海人のものと大差なかったように思います。きっと彼ら三人のそれは、平均的なサイズなのでしょう。  だけど大洋は、別格――まさに破格の大きさです。海人や潮たちと、明らかにモノが違う。  あれを受け入れるのか……。受け入れられるのか……。  恐怖に似た驚きのあまり、私はお尻をつけたまま、ソファの座面をズリズリ後ずさりしてしまいます。しかし左右に控えていた美波と潮にがっちり肩を掴まれ、留め置かれました。美波たちは私を逃がすまいとしているのかと思えば、だけどそうではなく――。 「やめてもいいんだぜ?」 「無理しないほうがいいよ」  二人の声には、私がここでやめてしまうことを望んでいるような、そんな響きが混じっていました。  大洋の眉が、また下がります。彼の、その寂しそうな顔を見て、私は心を決めました。 「……する」 「!」  大洋は犬のように四つ足になり、飛びかかるように私に接近しました。そして鼻先に顔を寄せ、念を押すように尋ねてきます。 「本当にいいの?」 「武士に二言はありません」  確かに尋常ではない大きさのあれでしたが、ぶち込まれたとしても、まあ、死にはしないでしょう、多分。  大洋は子供のように嬉しそうに笑っています。 「みさき、男前! かっけえ!」 「わっ!?」  私をソファに押し倒すと、足を開かせ、大洋はその間に自分の体を収めました。  膣口に大きなものが当たっています。何かに掴まりたくて、そうじゃないと耐えられない気がしたから、私は咄嗟に下に敷いたバスタオルを握りました。 「いくよ……!」  ぐっと肉壁をかき分け、大洋のそれが入ってきます。懸命に歯を食いしばり、でもそれも一瞬で解けてしまい、私の口を悲鳴が突いて出ました。 「んっ、あああっ……!」  丸々と膨らんだ亀頭の半分まで飲み込んで――そう、なんとか騙し騙し受け入れても、ようやく半分なのです。この苦行はまだまだ続くのだと悟り、私は絶望的な気分になりました。  痛い、苦しい……。 「がんばれ、みさき」 「呼吸を整えて! ヒッヒッフー!」  ――応援なんてしなくていいから、静かに、黙っていてください。潮たちを叱りつけたかったけれど、そんな余裕はなく、私はただ体を強張らせて耐えるしかありませんでした。  しかし永久に続くかと思ったこの試練の時は、あっという間に終わったのです。十分過ぎるほど潤っていた私の膣は、亀頭を飲み込んだあとはスムーズに、大洋のそれを一気に根本まで受け止めたのでした。 「……っ!」  いきなり深く貫かれて、私は喉を反らします。 「あっ、ご、ごめん……! 痛かった!?」  オロオロと慌てる大洋に、私は首を振って見せました。  奥を突かれたときは少し痛みがありましたが、今はただお腹がパンパンで、少し苦しいだけです。人間の体というのは、順応が早いのかもしれません。  大洋は私の上で、気持ち良さそうに大きく息を吐きます。 「オレ、みさきと、セックスしてるんだなあ……」  微笑みながらしみじみつぶやき、そして大洋はくしゃっと顔を歪ませました。 「た、大洋?」  泣き出すのかと思って、私は大洋の頬に触れました。その手を取って、指先を握りながら、彼はつぶやきます。 「一生童貞だと思ってた。だってオレ、絶対に、みさき以外とはしたくなかったんだ。だから……」 「大洋……」 「――本当に、夢みたいだ。初めての相手が、世界で一番好きな女の子だなんて、幸せ過ぎる。みさき、本当にありがとう……!」  声を詰まらせると、大洋は私の胸に顔を埋めました。真っ黒な少し硬い髪を撫でていると、私の心も幸福な想いで満ちていきます。  私も大洋が好き。素直で、私のことを一心に想ってくれる大洋が、とても好きです。 「友達だとしか思っていなかった彼を、一人の男性として好きになった」、というのは都合が良すぎるでしょうか……? 「大洋、動いてもいいよ。私はもう、本当に大丈夫だから」 「いいの?」 「うん」 「ありがとう……」  大洋はゆっくり腰を動かし始めます。それはとてもたどたどしいものでしたが、時折早くなり過ぎると私の顔を見て、必死にブレーキをかけて緩めてくれる。その気遣いが嬉しかったし、可愛かった。 「なんか、止まんなくて……! 痛くない……? ごめんな……っ」 「謝らないで……」 「みさきも、ちゃんと気持ちいい?」 「うん……」  嘘ではありません。性的な快感とは言い難いものでしたが、私の中に大洋がいる、彼と繋がっているという感覚が、嬉しかったのです。そして大洋の体温や、汗の匂い、息遣いすら愛しかった。ぶっちゃけ、くっついているだけで幸せなのです。  そして初心者であるが故、大洋の抽送は癖がなく、一直線に動いてくれるので――こう言ったらなんですが、楽でした。変に技巧派を気取る男は、まあ元彼の海人のことなんですけど、変な角度で挿入してみたり、動きもただ荒々しいだけだったりして、痛かったりしますものね……。 「あっ……! みさき、可愛い……っ! 可愛いよぉ! 好きっ、好きだ……! 可愛くて、優しくて……! みさきがオレのカノジョだったらいいのにって、ずっとずっと思ってた……っ!」  随分熱っぽく、大洋は囁いてくれますが……。  私は百人に聞いたら百人が「普通」と答えるだろう、凡庸な外見をした女の子です。こんなにかわいーかわいーと言われたのは、七五三のときに着物を着たとき以来じゃないでしょうか。  少なくとも、異性に褒め称えられたことはありません。元彼の海人だって、一度も言ってくれなかった。 「みさき、オレの初めて、もらってくれてありがとう」  引き締まった体に玉のような汗を浮かべて、大洋は冗談めかして笑っています。 「こっちこそ、ありがとう。私も幸せだよ。大洋、大好き」 「みさき……! みさき!」  告白すれば、大洋は目を丸くして、そのあと私をぎゅうっと強く抱き締めてくれました。 「なんだよ、これ。なんでこんなクッソラブラブなの、見学しねーといけないんだよ!」 「感動作じゃなくて、どうせならエッロエロなのが観たいよねえ。せっかく4Pしてるんだから」  横たわった私の周辺で、潮と美波がブツブツぼやいています。文句があるなら、しばらく席を外してくれればいいのに。  大洋はといえば、ハナから彼らのクレームが聞こえていないらしく、黙々と腰を振り、享楽に耽っています。  さすが天然。強者です。 「ごめん……! オレ、もう……!」 「うん、いいよ。好きなときにイッて……」  大洋ともっとくっついていたくて、二人の間の距離がなくなるほど密に体を重ね、彼の腰に足を絡ませました。何度目かの口づけをした瞬間、大洋の背中に回した手が、彼の肌が粟立つ感触を捉えました。 「あっ、あ……!」  私の内側を埋め尽くしていた極大の存在が、何度も弾けます。  ――終わった。  大洋は荒い呼吸を繰り返し、それが落ち着くと、私に頬ずりしました。 「気持ち良かった……。最高だった……」  大洋は感動に浸っています。その様子に水をかけるような、冷たい声が響きました。 「終わったなら、早く抜きなよ。避妊の基本だよ」  美波はまたそういう、ムードをぶち壊すようなことを言う……。  ですが大洋は気を悪くした様子もなく、自身を引き抜くと、素直に私から離れていきました。 「美波、ティッシュくれる?」 「はい、これ。一滴でも零したら殺すよ?」  余韻も何もないなあ……。  そして、美波と大洋のやりとりを見るともなく見ていた私の体に、後ろから腕が巻きついてきます。 「休んでる暇はねーんだよ。このビッチが」  この憎まれ口は、潮です。  頭にきた私は、彼の腕をつねりました。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加