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 潮の態度が悪いのはいつものことでしたが、それにしてもこんなときくらい、もうちょっと優しくしてくれてもいいと思うのです。  私のことを好きだと言ったあれは、冗談かなにかだったのでしょうか。 「なんでひどいことばっか言うの!?」 「うるせえな! さっさとケツ出せ!」 「やだっ!」  背後を取られたまま、私はじたばた暴れますが、頭を倒され、ソファに前のめりに倒れてしまいました。  潮はそんな私のウエストを掴み、引っ張り上げます。力ずくで四つん這いの格好にさせられ、あっと思ったときにはもう、後ろからペニスを突っ込まれていました。 「やっ、ひどい……っ! こ、んなの……っ!」 「ぐっちゃぐちゃじゃねーか。このドスケベが。大洋のチンコが、そんなに良かったのかよ?」 「あんっ……!」  言い返したいのに、激しく揺さぶられる私の口からは、頼りない嬌声しか出てきません。――悔しい。  あんな小さな……いや、潮のおちんちんが小さいわけではありませんが、しかし私の体積に比べればちっぽけな、あんなものを突っ込まれただけで、私は彼に支配されてしまったのです。  潮のガチガチに張り詰めた肉茎は、遠慮なく私の入り口から奥までを何度も行き来し、気持ちが良かった。それがまた――こんな雑な扱いをされているのに感じてしまう自分に、苛立ちを覚えます。 「あふ……っ! んっ、ああんっ! やらっ……!」  パンパンと腰を打ちつけられる衝撃と快感のせいで、体を支えきれなくなり、私の腕は崩れ折れてしまいます。  尻を突き出すような体勢になった私を、潮は抱きかかえ、陰部どうしを繋げたまま、自分の膝の上に乗せました。  背中に、汗でしっとりと濡れた、潮の上半身が当たります。  厚い胸板……。私を好き勝手できる膂力といい、潮はやっぱり男なんだ。  そんなことを意識してしまい、不快に思うべきところを、なぜか私はゾクゾクと震えてしまいました。  潮は私の膝裏を持ち、左右に開きます。 「ほら、二人に見てもらえよ。ずっぽり、俺のを咥え込んでるところをよ!」  確かにこれでは結合部が丸見えです。 「やだっ! やだ!」  必死に足を閉じようとする私を黙らせるために、そして美波と大洋に見せつけるために、潮は私を激しく突き上げます。私の体は跳ねて、ささやかな胸もぶるぶる揺れました。 「やめてっ! 潮! 美波も大洋も、見ないでぇっ!」  私の懇願は、当然のように聞き届けられません。  潮は変わらず、むしろ更に調子に乗って、私を凌辱し続けます。美波と大洋は真ん前、特等席に陣取り、私たちの交わりを熱心に見物しています。 「うわー、やらしい……。みさきのあそこに、ちんちんが出たり入ったり……」 「潮はホント、AVに影響され過ぎ」  恥ずかしい!  逆上した私は叫んでしまいました。 「嫌い……! 潮なんて、大嫌い!」  すると、潮の動きがぴたりと止まります。しばらく経ってもそのままなので、訝った私は体を捻り、背中側を覗きました。  潮は唇を噛みながら、俯いています。 「知ってるよ。どうせ、俺なんて……。俺のことなんて、おまえは嫌いなんだろ」 「潮……?」 「でも! おまえのこと好きになったのは、俺が最初だったんだからな! 美波よりも大洋よりも……海人よりも! 俺が一番に、おまえのこと、好きになったんだからな!」  意味が分からずきょとんとする私を、潮は憎しみのこもった暗い目で睨みます。 「俺はおまえのこと、中学のときからずっと好きだったのに……! なのになんで、海人なんか選ぶんだよ! あいつ、おまえのことなんか、全然好きじゃねえじゃねえか!」  思い返せば、潮と私は比較的家が近く、中学も同じところに通っていたようなのです。でも私たちの出身中学は生徒数の多い、いわゆるマンモス校だったから、私は高校で海人とつき合うようになるまで、潮のことを知らなかった。  それは潮も一緒だと思っていました。  だって潮は私と初めて喋ったとき、まるっきり初対面のような、そっけない態度だったのですから。 「私のこと、前から知ってたの?」 「ああ、そうだよ! ――ずっと好きだったんだよ! いつもヘラヘラ笑ってて、その笑顔が可愛くて、気になって……! 好きになっちまったんだよ! くそっ!」  ヤケにでもなったのか潮は大声で言い返し、逆に私は絶句します。  中学からといえば、もう七、八年も経つ。私のことをそんなにも長い間、ずっと想っていてくれたなんて。  それを潮はおくびにも出さなかった。意地っ張りにもほどがあります。 「やっと海人と別れたと思ったら、すぐにまたひっついて……! そんなの、何回繰り返すんだよ!」  潮は毒舌だけど親切だったから、一番話がしやすくて、だから私はなんでも相談していました。  もちろん、海人とのことも。  潮の本心を知った今思えば、とてもひどいことをしていた……。  申し訳なくなって、私は後ろに腕を回し、潮の頭を撫でます。しかしそれがかえって火に油を注ぐことになったのか、潮は怒りで燃え上がってしまいました。 「大洋がピュアだ? ――そうだよ、俺は臆病で狡いから! おまえのこと忘れようって、別の女とつき合って、セックスだってしたよ! でもおまえ、俺に女ができるたび、『良かったね』って平気な顔して祝福しやがって……! そのときの俺の気持ち、分かるか!? 死にたくなる気持ち、分かるかよ!? ああ!?」  潮の言い分によると、私は極悪人のようです。そこまで責められたら、黙っているわけにはいきません。 「言ってくれたら良かったじゃない!」 「……そうだよ、全部吐き出しちまえば良かったんだ。でも、おまえに避けられるかもしれないと思ったら、できなかった。俺、おまえの側にいられなくなるのだけは、嫌だ。例え報われなくても、おまえと一緒にいたかったんだ……」  か細い声でそう言うと、潮は縋りつくように、私を抱き締めました。  ――なんなの。潮って、こんなに可愛い生きものだったかしら。  潮をどう扱っていいのか迷った私は、助けを求めようと、美波と大洋に目をやりました。  大洋は潮に同情しているのか、うるうると瞳を潤ませており、美波は退屈そうに欠伸などしています。  そして私は、不意に気づきました。 「あ」  私の中にいる潮自身が、硬度を失いつつあるのです。それが彼の心の張りまで失われていくように思えて、私は腰を上下させました。  雪山で凍死しかかっている人を、温めるように。――この例えはおかしいでしょうか。  ともかく、潮にしっかりして欲しかったのです。  「っ! なんだよ! 人が真面目な話をしてるのに!」  潮はそうぼやきますが、人におちんちんを突っ込んだまま、長々と深刻な話をするのもどうなんでしょうか……。  だけど、ここは私が引くべきですね。 「ごめんね。私、無神経だった」  謝ってから、私は潮の頬や目尻にキスしました。肌に顔を近づけるたび、嗅ぎ慣れた匂いがして、落ち着きます。  シャンプーかな、デオドラントのなにかかな。つらいときも幸せなときも、私の側にはいつも、潮のこの香りが漂っていた……。  潮は幾分、気持ちを立て直したようです。 「……これからは、おまえは、俺のものだよな?」 「うん、そうだよ」  強気なようでいて弱気な潮の問いに、私は即答します。 「おまえだけのもんじゃないけどな」 「みさきは、オレたち三人のカノジョだ!」  美波と大洋が素早く訂正を入れますが、潮には聞こえていないようです。 「みさき……」 「潮……」  私と潮は改めて深く唇を重ねました。舌が絡まるたび、彼のペニスは硬く張り詰め、私たちの繋がりを確かなものへ変えていきます。  やがて潮は再び動き出しました。 「あっ、ん……」  私は強制されるでもなく、自然に足を開いていました。  座った男性の膝に後ろ向きで跨がるというこの体位は不安定で、どうしても挿入が浅くなってしまいます。物足りなさを感じていると、それを補うかのように、胸と股間に潮の手が伸びてきました。  長い指が器用に勃ち上がった乳首をつまみ上げ、クリトリスを擦ります。私の体は熱を帯び、放出先を求め始めました。  上り詰めてしまいたい……! 「みさき。俺のこと、少しは好きか……?」 「少しじゃなくて、すごく好きだよ……っ」  睦言を交わしながら、私たちは互いを吸うようにキスします。  気づけば美波と大洋が、ギラギラした目で私たちを見詰めていました。 「見ないで……」  嘘です。本当はもっと見て欲しい。  私の理性はすっかり瓦解し、欲望が剥き出しになっていました。  もっともっと気持ち良くなりたい。  美波と大洋の視線で、この淫らな体を焼いて欲しい。 「私の恥ずかしいところ、見ないでぇ……!」 「みさき、可愛い……!」 「すごくエッチだ……!」  誘い水のように甘ったるく囁やけば、案の定、美波と大洋はますます貪欲に私たちを眺め回します。  男たちの手はやがて自身の性器を掴み、扱き始めました。  ああ、なんていやらしいの……!  私の痴態を観察し、肥え太っていく二本の肉の棒を見て、私は興奮してしまいました。  四人の荒い息が、部屋に篭もります。  「きもち、いい……っ! いいよう……っ!」  私は自ら動き、下の口で深く浅くペニスに食らいつき、咀嚼します。  相手を貪っているのは、私と潮、どちらなんでしょう……? 「あっ、もう、ダメ……!」 「イクのか? みさき、イクって言え……!」  乳首と陰核と膣と、三箇所を同時に攻められれば、ひとたまりもありません。  閉じた瞼の裏に、閃光が幾度も走り、やがて全てを白く染め上げました。  体が浮く感覚がします。 「いく、いく……! あっ、あ……!」  達すると同時に、自分でも信じられないくらい強く私の膣道は閉じ、開く。その動作を何度も繰り返しました。  パクパクと痙攣するたび、お腹の奥が疼く。気持ちいい状態がずっと続いています。 「あっ、ああ……」 「ん……っ! 締まる……っ!」  心地良いのは私だけではなく、潮も――。  そもそも、女の体はそうなっているのかもしれません。自分を絶頂に導いてくれた相手に、快感を返そうとするのかも。 「あ……っ。出る、出る……っ!」  潮の突き上げがガクンと緩くなったかと思うと、ゆるゆる動いて、彼はとうとう止まりました。  ――イッたのでしょう。  私は朦朧となりながら、自分に埋め込まれた陰茎が精を吐き出す、その脈動を感じ取っていました。  そして。 「みさき、好きだ。好きだ……。愛してる」  最後に耳元で、私にだけ聞こえるよう小さく告白した潮のことが、愛しくてたまらなくなっていました。
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