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ムシムシした空気。じんわりと着ている半袖が、汗でべとついた地肌にくっついている感じがする。蒸し暑い夜の寝苦しさで目を覚ます。
確かに布団の上で目を覚ました。だが、自分は地面に立っている。なんとなくだが、意識もハッキリしている感じがある。
自分の周囲に意識を向けてみる。周囲は真っ暗闇だった。あたり一面に黒色で塗りつぶしているかのような暗闇。だが、ただの暗闇ではない。その先に何かがいるような暗闇。いや、何かがいるだけじゃない。何かがある気もしてくる。
自分の目の前に手を伸ばす。伸ばした指先が少し震える。そして、指の関節に嫌な違和感が襲ってくる。
それらの指の感覚に自分の意識が向いた時、急に背筋がゾクッとする感じが襲ってきた。まだ何も見ていない。ただ、真っ黒な景色を見ているだけだ。別に幽霊を見たわけでもなく、何か触られたりしたわけでもない。ただ、人が感じる恐怖感のスイッチを撫でまわされている感じだ。
「ど、どうすればいい」
無理やりのどの奥から言葉を絞り出した感じがする。自分の声じゃないような、こんな情けない声が出てくるのか。そんな声を絞り出しても当然誰も返事をしない。
伸ばした手をゆっくりと腰のところまで戻す。思い出したかのように呼吸も意識する。どうすればいいのか。
とりあえず前に進んだ方が良いかと思い、一歩足を踏み出そうとしたその瞬間、後ろから嫌悪感が一気に迫る!!背中が全体に電流が走ったかのようにゾクッと鳥肌が立つ。
一気に後ろを振り返るが、正面と全く同じで真っ黒な世界であった。何もなくてほっと安心する。が、その安心をすぐに恐怖心が黒く塗りつぶしてしまう。
また正面を向くが、先ほどまでと全く変わらず黒い景色が続く。この先には何があるのか。それを想像すると、指の先が痺れる感覚や、身体の関節がきしむような感覚が襲ってくる。心もそうだが、身体も怖がっていることを実感する。
どれくらい時間がたっただろう。もう何時間も経った気が気もするが、ふと周りに意識を向けただけだった気もする。
少し黒い世界に慣れてきたのか周りの景色が見えてきた。石が積まれて石垣のようになっている。それは正面だけでなく、自分を囲むようにぐるりと一周している。石垣は雑に丸くて大きな石が無造作に積まれているが、隙間がある感じではない。それが果てしなく高く積まれている。上が真っ暗になっていて見えない。
石垣はまっすぐ上に積まれているわけでなかった。少し前のめりに積まれていて、石垣からの圧迫感というか、圧力を感じる。その圧力によって息苦しさも感じる。呼吸が荒くなる。元の呼吸に戻そうとするが、全然戻らない。いつもの呼吸が出来ない。そして、上を見上げても何もない。石垣に阻まれて出口が見えない。泣きたくなるような無力感を感じる。
膝が折れて地面につく。上半身を支える力が抜けていく。息苦しさも強くなって、鼻が詰まっているかのように鼻から空気が出入りしなくなる。無力感や息苦しさを実感しながら前のめりに倒れていく。倒れた身体が横を向いた時に瞼が重くなっていく。
すぐにでも眠りにつきたい感覚があるが、脳の一部がはっきりしていて、このまま眠りにつくと取り返しのつかないことになるような恐怖心のアラームを警鐘として鳴らしている感じがある。腕を動かそうとするが、身体と考えが繋がっていないのかピクリとも動かない。
警鐘は鳴り響くが、どうしても瞼が閉じるのは止められない。覚悟を決めて自分の意識を身体の感覚に預けることにした。そうして意識は深く沈み込んでいった。
身体の不快感で目を覚ます。まだ意識がはっきりとはしていないが、鼻づまりによる呼吸のしづらさ、エアコンが止まっていることによる熱気と湿度がねっとりとまとわりついている感じが睡眠を妨害していたようだ。時計を見ると、まだ起きるはずの時間の2時間も前だ。
それにしても嫌な夢を見た気がする。残りの時間でもう少しだけでも寝ようと思ってまた横になって目をつむった。まだ外の景色は暗いままだった。
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